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VOL.43 MAY 2007

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[OB MESSAGE] 精神保健福祉援助実習から得たこと

通信教育部OB(精神保健福祉士) 神谷 正子さん

 評価が終わり返却された実習記録を読み返しながらこの原稿を書いています。約1カ月間の精神保健福祉援助実習はかけがえのないすばらしい経験となりました。これから精神保健福祉士を目指し実習を体験する後輩のみなさんのお役に立てればと思い,私の経験をお伝えしたいと思います。

●精神保健福祉士をめざすきっかけ

 そもそも私は,本学通信教育部に入学する以前は,福祉についてまったくの素人でした。精神保健福祉を本気で勉強してみようと思えたのは「障害者福祉論」や「精神保健福祉論」のスクーリングに参加してからのことでした。講義を受けてみるとそれまでは遠い世界のことと思っていた精神障害や統合失調症が,身近な誰にも起こりうることであると知りました。社会的入院という事実に衝撃を受け,また講義のなかで当事者の方のお話を伺い,その想いや苦悩,そして暮らしにふれる機会となりました。その体験が私の心を大きく揺さぶり,精神障害とはどういうことなのかもっと知りたい,学びたいという気持ちに変化しました。

●役立ったボランティア

 自分の年齢や経験を考慮に入れると今から大学の勉強だけで現場を知らないというのはマイナスだし,体験学習や実習にも漠然とした不安を感じていました。そこで手始めに精神障害者通所授産施設でのボランティアを始めました。このボランティア体験がその後の実習や就職を進める上でとてもプラスになりました。授産施設の利用者さんはとてもまじめで気さくな方ばかりでした。作業のわからないことを教わったり,同じテーブルでお昼ご飯を食べたり,休憩時間に一緒にテレビをみたりしました。家族の話をしたり好きな芸能人の話をしたり,食べ物の話をしたり……。障害を持っていても同じ感覚を持ち,同じ街に暮らし,同じ生活者であることに何ら変わりありませんでした。利用者のみなさんは私の名前をすぐに覚えてくれて,私が作業で困っていると助け舟を出してくれました。いつしか私が施設のためのお手伝いをしているというより,いつでも気楽に行ける居場所を得たような感覚になりました。そう,助けられていたのは私のほうでした。
 授産施設の利用者さんから「もっといろんな施設を見たほうが勉強になるよ」とのすすめもあり,精神科デイケア施設のボランティアにもチャレンジしました。デイケアは治療の場でもあるので随時ボランティアを受け入れているわけではありません。紹介者を立て面接を受けてようやくボランティアとして通所が可能となりました。本学卒業までの1年半の間,デイケア指導ボランティアという立場で生活関連プログラムのお手伝いをさせてもらいました。現場での専門職と利用者さんとのやり取りを意識して観察することで,援助技術としての傾聴?受容?共感といったことを体験的に学ぶことができました。また,いろんな症状,障害を持った利用者さんと交流できたことも貴重な経験となりました。
 この2つの施設でのボランティア体験を経て,体験学習や実習にすすむためのハードルは確実に低くなりました。精神保健福祉の現場で働きたいとの思いも強くなってきました。

●精神保健福祉援助実習の経験

 精神保健福祉援助実習の実習先は,はじめにボランティアにいった精神障害者通所授産施設に決まりました。なかなか実習先が決まらない方もいるようですが,ボランティアなどで複数の施設に関わっておくと比較的容易に受け入れてもらえるのではないでしょうか。
 実習中は施設の作業プログラムに参加することが中心でした。利用者さんと同じテーブルで割り箸の袋入れをしたり,化粧箱を折ったり,封筒を数えたりすることがおもな作業でした。施設にはいろんな方がいます。精神障害といっても,統合失調症,気分障害,神経症,てんかんと症状はさまざまです。また自立支援法が施行され,知的障害者も受け入れていました。年齢層も幅広く作業のときの話題もいろいろです。お話が好きな方もいれば,人との交流が苦手な方もいる。まさに障害もそれぞれ,人もそれぞれです。そこで学んだことは精神障害だからこうであるということは言えないということです。障害を抱えたとしても,その人の性格や考え方,その人らしさはそのままなのではないでしょうか。また援助職につくということは,常に援助される側の視点や想いを汲み取っていくことが一番大切ではないかと痛感しました。職員さんの作業指導では利用者さんひとりひとりの能力や個性を把握し,体調などに配慮した声がけを適切なタイミングで行っています。また,その人のできることは自分でやってもらうこと,援助しすぎないことも利用者さんの自立のために大切なことであることも学び取れました。
 実習中に疑問に思ったことや利用者さんとのやりとりで困ったことは,その日のうちに職員さんに指導を受けて対処しました。また問題行動がある方のケース記録や処遇会議録なども閲覧させていただき一歩深く勉強しました。悩んだまま1カ月過ごすことは心身ともに疲れると思います。困ったときには相談できることも援助職としての適性のひとつではないでしょうか。施設の職員さんは常に連携をとり情報を共有しながら支援にあたっています。援助業務の基本はチームワークであるということも学びました。
 実習記録を読み返すと施設での行事や毎日の利用者さんとのやり取りや職員さんからのアドバイスなど昨日のことのように思えます。1カ月間の貴重な経験はこれから精神保健福祉の専門職として歩き出す私の原点としてしっかりと心に刻んでおきます。

●精神保健福祉相談員として新しく採用されました

 去年からは社会福祉協議会の非常勤職員として障害者の相談支援業務にあたりましたが,本年4月からは市の精神保健福祉相談員として行政職に就くことになりました。私の年齢からいって専門職としてやっていくにはかなり厳しい状況でしたが,計画的に学習を進め,デイケア指導ボランティアや実務経験もつけていったことがいい結果につながったと思います。通信での学習は待つ姿勢でいてはなかなか進みません。自分からアクションを起こしていくことで,出会いも生まれ,壁をひとつひとつ乗り越えていけるのだということを実感しました。自分のペースを見つけて一歩一歩前に進み続けること,うまくいかなくてもあきらめないでとにかく継続していくことで少しずつ精神的にタフになってきました。継続することが必ず力になるということを後輩の皆さんにお伝えしたいと思います。
 最後になりましたが,ここまでくるのには,たくさんの出会いや支えがありました。ボランティアおよび実習施設の利用者さんと職員さん,通信教育部のスタッフのみなさんと先生方,学生会のメンバーに心から感謝しています。本当にありがとうございました。

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