【通信制大学院コーナー】
平成19年度通信制大学院修了者からのメッセージ2
「人生の砂丘とは‥」
福祉心理学専攻 小平 寛
私は常日頃,自分の人生を砂丘として捉えてきたような気がする。海岸で砂浜を歩いているとき,振り返ると足跡が残るように,自分の人生においても一体何が残っているのだろうかと思う。本当に精一杯人生を生きてきたのだろうか,やり残したことはないだろうかという思いはいつも頭の隅にあった。このような私の一種のエゴともいえるこだわりは,友人たちには理解できるはずもない。社会人として安定しており,趣味での生活を満喫している友人からは,今さら学習するのかといった反応が返ってきたし,「何で心理学」と思ったに違いない。
私が学習の必要性を感じたのは,看護師として,ある患者に関わったことが誘因となったような気がしている。当時の私は,精神科勤務で看護師の職種に満足しており,看護だけの学習に意欲的であった。そんな折,他施設からアルツハイマーの患者が入院となり,私はまずデータで患者を理解しようとした。しかし,患者や家族は,医師や看護師を選択できない弱い存在であることに気がついたとき,再び学習の必要性を感じ,はじめ保健大学に入学した。
保健大学で学ぶうちに,心理学を学びたいという気持ちが強くなり,東北福祉大学通信教育部福祉心理学科の一期生として大学生活が始まったのが今から6年前のことである。4年間の学部生活は,心理学を学ぶ身にとって,さらに言えば自分の人生にとって大変有意義なものになり,卒業論文を執筆することもできた。しかし,4年間だけでは満足できず,学部を卒業する年に大学院を受験し,合格した。大学院は学部と違い,2年間という短い期間であったが,レポートや単位修得試験は学部からの延長であったし,比較的文章を書くのが好きな私にはあまり苦にならなかったため,1年目で卒業単位はほぼ終えていた。
大学院は,まさしく自学自習の場であり,修士論文を指導してくださった佐藤俊人先生も一人の研究者として接してくださった。そのことは喜びであるとともに大変難しくもあり,常に「どうすればいいのだろう」と自問自答する日々であった。それに,仕事をもっての学習は単純な精神論では長くは続かない。何事でもやめてしまうことはとても簡単であると思う。言いわけは「年齢が‥」「仕事が大変で‥」「私生活が少し‥」などと挙げれば,周囲の雑多ごとと同じくらいあるに違いない。そんな私が2年で修了できたのも,学友に恵まれ,佐藤俊人先生という生涯の師ともいえる方に出会えたことが大きい。
私は,毎日「健康であり,環境的にも好きな勉強ができている。感謝しなくては‥」という感謝の念を忘れずに生活をしている。現在,外科病棟に勤務しているため人の死に直面することが多い。自分の無力さに胸が押しつぶされるような,息を殺し,自分の体のまわりにできた透明な卵の殻が,日に日に厚くなっていくのを恐る恐る見つめていくような感覚を常日頃感じてしまうことが多い。また,絶えず人の死に直面していると,こんなことも考えてしまう。それは,どんな人でも,どんな時でも人間らしく生活をまっとうし,さらに,それぞれがその人らしく人生をまっとうしたいと願っているのではないだろうかということである。
最後に,各科目担当の先生方や事務室の担当の方々,そして論文の質問紙に協力してくださった通信教育部の学生の皆様には,感謝の念で一杯である。紙面をお借りしてお礼を述べたい。
これから,ますますリカレント教育が盛んになり,どんな境遇の方でも自分の意志の強さがあれば,大学院で自学自習できるようになってほしいと願ってやまない。私自身も今年は少し休みたいと思っていたが,学習の虫の私には無理であった。4月から,再び他大学院で心理学を学ぶことにした。社会人になってもなお学び続けたいという同志に心からエールを送りたい。
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