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【通信制大学院コーナー】

[福祉心理学研究演習I] 私の研究歴

教授
村井 則子

●1 私の専門分野は?

 現在のところ,東北福祉大学の学部(通学)では,学習心理学,老年心理学,福祉心理学,心理学概論を,大学院(通学)では福祉心理学特講の「母親の心理学」を講義しておりますが,「専門分野は何か」と問われるとチョットとまどってしまいます。心理学であることは確かですが,それ以上に,例えば,社会心理学とか生理心理学とか一言で答えて学生に納得してもらうのが難しいからです。
 心理学概論は読んで字のごとく心理学全般の入門的講義であり,福祉心理学は社会福祉士の受験を目的とした教科書を使った授業で両方ともあまり専門とは関係していません。

●2 私のこれまでやってきたこと

 学部卒業論文から大学院5年間と1年間の助手時代は,主として「条件づけにおける個体差の問題」がテーマで,学習心理学が専門であったと言えそうです。
 およそ30年前に東北福祉大学に勤めてからは,個人的な事情や設備の点などから,ネズミの慢性実験は無理ということになりました。それで,「個人(体)差の問題」はそのまま続くのですが,「妊産婦の感情と母親の育児態度の問題」にテーマを変更しました。当時はフェミニズムの影響もまだ及んでいなくて,女性特有のテーマでの研究は日本にはほとんどなかったのですが,文字通りマイペースで細々と続けておりました。それでも毎年の東北心理学会やときどき日本心理学会や日本教育心理学会などに発表していました研究結果を,一昨年『母親の心理学』として一冊にまとめることができました。
 しかし,「専門は母性(女性)心理学です」と言うのにはやはり少しためらいがあります。私にとって興味があるのは,母性(女性)そのものというよりもどちらかというと「感情や態度の個人差の問題」だからです。

●3 東北福祉大学における老年心理学

 かれこれ10年近く老年(人)心理学を講義しておりますが,東北福祉大学の福祉心理学科における老人心理学について,私が高齢者の研究を始めたきっかけとともに少し触れてみたいと思います。
 老人心理学は,福祉心理学科の一期生が3年生になった昭和50(1975)年に,古籏安好(ふるはたやすよし)教授によって開講されました。これは,東京都老人総合研究所が1972年に始まったことを思えば非常に注目に値することです。
 古籏教授が定年退職なさってからは,しばらく北村晴朗(せいろう)教授が非常勤で開講され,その後何年か小松紘教授が引き継ぎ最後に私にお鉢が回ってきて現在に至っているというわけです。
 その間に特筆したいのは,昭和53年に「老年期における心的諸機能の変化と適応の問題」についての共同研究が,当時学科長であった北村晴朗先生他8名の福祉大学福祉心理学科全専任教員によって始められたことです。「高齢者を肯定的な視点から研究しよう」という当時としては非常に画期的な計画でした。このプロジェクトには,古籏先生はもちろんのことですが,まだ若かった木村進教授,小松紘教授,西野美佐子教授と私も参加していました。
 それぞれ得意分野を受け持って研究を進めたのですが,私は,学習と感情ということで,「高齢者の回転円盤追跡や鏡映描写のような知覚運動学習におよぼす分散練習と集中練習の効果について」と「ロールシャッハテストやTATに対する反応に見られる感情(性格)の特徴について」いくつか実験や調査をして成果を発表しました(興味のある方は『東北福祉大学紀要』第4巻から第8巻に載っていますのでご覧になってみてください)。
 当時は他に高齢者について研究している所などはほとんどなくて,学会などではよく東京都の老人研究所の人たちと同室になり,スタッフの一人から「私たちもぼやぼやしてはいられない」となかば本気で言われるほどの勢いで研究していました。
 しかし,心理学科の大学院も通信制もまだなくて今よりズーとのんびりしていたとは言え,なかなか研究を続けることが難しくて残念なことに数年でプロジェクトは立ち消えになってしまいました。
 ただ,福祉大学の当時60歳以上であった教職員25人に協力者になっていただいてロールシャッハテストをしたのですが,12年後の1995年に,その間に亡くなられた方を除いて17人に再テストすることができまして縦断的に分析できたのは,私にとって非常にラッキーなことでした。

●4 ジェンダーとエイジング

 通信制大学院が始まって「ジェンダーとエイジング」というテーマで演習を受け持つことになりました。私もあと3年ほどで高齢者の仲間入りということと,これまでやってきた「母親の心理学」の続きというかなり個人的な背景で選んだテーマです。それゆえにと言うかそれにも関わらずと言うか,それぞれ人生経験豊かな演習受講生の方々からは,若い通学生にはない体験に基づいた貴重な意見などが聞けて,私も刺激を受けて演習を楽しませていただいております。
 英語が苦手という方がいらっしゃいますが,英語の時間ではないのであまり気にしなくても良いと思います。私も心理学の文献だから慣れで何とか読めるだけで,英語には全然自信ありません。
 英語とは別に日本語訳でベティ?フリーダンの『老いの泉』を演習で使っていますが,この本は,ともすれば落ち込みがちな人にとって,特にこれから老いに向かう女性にとって,読むととても勇気づけられ,元気の出てくる本ですので,演習を取らない人にもお勧めいたします。

●5 あきらめないで続けましょう

 近頃世の中では,とかく変化が賞賛され,「変革?改革」と変化それ自体が目的で変わらなければ価値がないような雰囲気です。
 しかし,我々凡人にとっては,「継続は力なり」で,あきらめないで細々とでも続けていればそれなりの結果に繋がっていくことをこの頃痛感しております。
 50歳を過ぎてから腰痛の治療目的で,医者に通う代わりにスイミングを始めました。それまで水とは全然縁がなく高校時代に初めてプールに入って3年生の時には「25メートル泳げないと体育落第」と脅かされて息継ぎができないのに死にものぐるいでプールに飛び込んだ苦い思い出があります。今回もまさかこんなに続くとは本人も驚いているのですが,そろそろ10年になろうとしています。気がついたらいつの間にか不思議なことにプールの底に足をつかずに1000メートルは泳げるようになりました。
 25メートルのプールを40回行ったり来たりですと途中20回くらいでイヤになってきますが,我慢してなんとか続けていると30回過ぎると楽になり,泳ぎ終わった後にはとても気分が良くなり,当分プール通いやめられそうもありません。
 40の手習いならぬ60のスイミングですが,「石の上にも3年ならぬ水の中にも10年」やって何とかそれなりに楽しめるようになりました。
 私の経験から言わせてもらえば,たいていの心理学の研究テーマも10年やるとなんとかなるようです。あせって息切れして早々と見切りをつけたりしないで,とにかくあきらめずに続けていきましょう。そして,楽しめるようになりましょう。

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