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【現場から現場へ】

[関連施設紹介] 児童自立援助ホーム「せんだんの家」

せんだんの杜 杜長
中里 仁
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●児童自立援助ホーム事業とは

 「児童自立援助ホーム」?一般的にはあまり聞き慣れない名称ですが,自立援助ホームとは「中学校を卒業して児童養護施設等を退所し,一人で働かなくてはならない児童や,なんらかの事情で高校を中退したり,虐待や家庭崩壊その他の諸事情で自立(働いて一人で生活する)しなければならない青少年たちを対象に生活の場(家)を提供し,自立生活の相談,就職活動の援助,その他,自立に必要なさまざまな支援を24時間365日体制でおこなう事業」です。
 実際に自立援助ホームで生活している青少年たちの多くは「児童養護施設」での生活を余儀なくされ育ってきた子どもたちです。「余儀なくと」と表現したのは,子どもたちが望んで児童養護施設で育ったのではなく,親をはやくして亡くしたり,親が精神的?肉体的な理由や経済的な理由で子を育てられなかったりと,「あくまでも親の事情」によるところが多いからです。もちろん,親だけの責任ではなく親を取り巻く社会の仕組みや環境の改善を図らなくては何の解決も生まれないのですが……。
 話を自立援助ホームに戻しますが,せんだんの「家」では現在10名の子どもたち(全員男子)が働きながら暮らしています。年齢は15歳から19歳(児童福祉法による利用対象年齢は15歳から20歳)で,職業はサービス業(パチンコ遊技場,調理関係)や建築関連業(タイル工),清掃業などの職につきながら自立に向けアパートで暮らすための「貯金」をしています。職業柄,早番?日勤?遅番といった変則勤務や建築関連で「現場」が遠方の場合など,はやい子は朝6時には「せんだんの家」を出て仕事へ向かいますので,朝食の準備をする職員も毎朝5時頃に起きて子どもたちを送り出します。日中は自立していった子どもたちの生活相談に応じたり,就職先の都合で失業してしまった子どもたちと共に職業安定所に同行したりして,夕方は仕事から帰ってくる子どもたちの夕食を準備し,就寝までの夜の時間は職場でのさまざまな悩みや,離れて暮らす生みの親や兄弟のことなどの相談を受けたりしながら「せんだんの家」の一日は暮れていきます。

●子どもたちから学ぶもの

 せんだんの家で暮らす子どもたちのみならず,自立援助ホームで暮らす子どもたち(男女とも)の多くは「心に大きな傷」を負いながら育ってきています。例えばそれは,親からの直接的な精神的?肉体的「虐待」であったり,間接的ではあるにせよ友人や時には施設職員によるものであったり。なによりも大人に対する「不信感」と「愛情の欠落」による心の傷が一番深いはずです。にもかかわらず,せんだんの家の子どもたちと接していて「私」が感じることは,情緒的な言い方かもしれないが「みんな健気にそして懸命に生きている」。
 一カ月働いて,手取りの賃金が9万円から12万円。比較の問題なのでこれが多いか少ないかは別として,自立援助ホームは養護施設ではないので子どもたちはこの賃金の中から3万8千円程度の利用料(朝?夕の食事代,日用品,医薬品,新聞代,光熱水費代として)をせんだんの家に毎月支払います。職場での昼食代は別で,昼食代だって飲み物も含めれば今時500円?600円はかかりますので,30日で1万5千円。通勤用のための原付免許の取得代やらバイクの月賦代や保険料も彼らは自分で賄います。欲しい物もあるでしょうし遊びたいでしょうが極力無駄使いをせず,全員が少しずつではあるがせんだんの家から自立するために「貯金」をしています。「それが自立した生活なのだから当たり前」と言ってしまえばそのとおりなのですが,私は「頭が下がります」??彼らの前向きな生き方とその姿勢に。毎日懸命に生きる彼らを見ているとついつい私は「たいしたもんだ,頑張れ,俺も頑張る,そして,ありがとう……」となぜか思ってしまうのです。今,せんだんの家で暮らす10名の内3名が「福祉関係の仕事」に興味をもち,働きながらすでにホームヘルパー2級の資格を取得しております。

●自立援助ホームの課題

 自立援助ホームとせんだんの家の概要について簡単に紹介させていただきましたが,残された紙面の中で「自立援助ホームの課題」について挙げてみます。最大の課題は自立援助ホームの「絶対数の不足」。1998年の児童福祉法の一部改正で「自立援助ホーム」もようやく「児童自立生活事業」という名称で児童居宅生活援助事業の一類型として「法制度化」されましたが,未だ全国で18ホーム,無認可の2ホームを入れても20カ所しかないのが現状です。自立援助を必要としている多くの子どもたちの実状を考えれば,法制度化の「時期」そのものが遅すぎると私は思います(ちなみに「せんだんの家」は1998年の法制度化と同時に開設しました)。
 では,必要な事業であるにもかかわらず「何故」増えないのか……答えは単純で,「国が定めた補助金の基準額が低いうえに,各自治体の財政も逼迫しているため,自立援助ホームに支出する事業費が出にくい」からです。要するに「お金(財源)」の問題が起因しているのです。前記の表現に不適切な部分もあるかもしれませんが,「原則的に子どもたちの生活する建物(家)を事業者が準備し(賃貸住宅にせよ,新たに建てるにせよかなりの自己資金が必要),しかも24時間365日職員を配置する(仮に2名の職員でこの事業に携わるとしたら,日勤?宿直を合わせ週に3回?4回になってしまう)」??無理のない必要な人数の職員を配置するのは可能ですが,補助金の算定額が低すぎて収入と職員に支払う人件費支出が折り合わないのが「現実」なのです。もちろん,社会福祉法人は「民間」事業体ですから,補助金収入に頼るのではなく事業体としての経営努力をいま以上にしなくてはなりませんが,「福祉」を「人権」と読み替えるとするならば,充実した福祉政策を有する国こそが「成熟した国家」といえるのではないでしょうか。

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