【学習サポート】
[福祉心理学] 教科書を読もう(その2)
前号につづいて「福祉心理学」の現在の教科書『福祉の時代の心理学』を読んでいきます。私たち職員は仕事柄スクーリングを聴けることも多く,その耳学問の成果とこれまでの自身の読書経験から,個人的にポイントと思ったことをあげてみます。
今回の「社会心理」と「発達心理」は具体的にイメージしやすい内容ですので,1?2章がわかりにくかった方も是非読んでみてください。
●6章 社会心理:人間関係を築き支え合う
社会心理学は「人間関係」を扱います。「集団」のなかで起こっていることとか,「集団」や「社会」が個人にどういう影響を与えるかというようなことも扱いますが,この「人間関係」から人間を理解しようとする見方は,「心理学的な人間理解」にあちこちでつながります。
POINT1
p.102?103 自分づくりは他人抜きではできないですよ,「他人にどう思われているか」を感じながら,自分をつくっていくという考え方はとても大事。発達心理学でいうアイデンティティの確立にもつながる考え方ですし,独居老人の幸せなどといったテーマ(この教科書p.64や『学習の手引き2007』p.22に出てくる「主観的幸福感」)を考えるときにも使えるでしょう。もちろん,物理的には孤独でも,心のなかに対話できる他者がいれば,社会的自己は持てることになります。逆に現実には違うのに「自分はまわりの誰からも好かれない」というような考え方をもってしまうと,不適応な自己イメージができあがってしまいます。
ミードの考え方は,「役割」が自分をつくるという考え方で,もっといえば「一般化された他者」(“世間”や属している集団からのルール)から期待されていると感じる役割と自分とのせめぎあいのなかで,自分が形づくられていくということです。心理学概論の教科書(『図説現代心理学入門』)三訂版p.37図2-1のとおり,集団から与えられた「役割」は「性格」にも関係してきます。
この「自己」というテーマはやや哲学的で難しいですが,東北福祉大学福祉心理学科の名物教授であった北村晴朗先生という方が『自我の心理』(誠信書房,新版1977年発行,現在品切?図書館にはあり)という大著を著しておられます。
POINT2
p.103?109
「人間関係の形成と維持」のところは,わかりやすいですし,教科書の著者も「福祉心理学」に使える内容をピックアップして書いておられますので,読んでいろいろ考えてみてください。人が他人に与えられるものとして,図6-1のとおり「愛情」「サービス」「物品」「金銭」「情報」「地位」というようなことも書かれていておもしろいですね。
POINT3
p.109?の「態度」は社会心理学では外に現れた行動そのもののことではなく,心のなかの「価値観」「好き嫌い」のようなものをさします。だから中学校などでよく言われた「態度がいい?悪い」という使い方とはちょっと意味が違いますのでご注意を。
人の行動がなぜ起こるのかのモデルが図6-2やこの付近の解説に載っています。いま福祉の世界では「予防福祉」ということがよく言われますが,そこでもこの「態度」や「説得」の知見は使えますね。食べすぎが直らないのはなぜかなど。
POINT4
p.113?のソーシャル?サポート(友人や家族からの支え)があれば,ピンチのときもやっていけるという研究も「福祉心理学」で使えますね。p.115にあるように,サポートすることで本人も生きがいを感じる(サポートされる)とか,サポートが必ずしも歓迎されない場合もあるという記述は深くていいですね。
●7章 発達:生まれてから大人になるまで
「人間は発達するもの」という見方も,心理学的な人間理解のひとつといえると思います。発達心理学の分野は,自分の「来し方行く末」と重ね合わせて読むとよいのではないでしょうか。この7章は文章的にも含蓄があり,じっくり何度も読んでみてください。
POINT1
p.122?123の「人間は一生涯を通じて発達する」という見方は「生涯発達心理学」レポート課題に関連してきます。また,表7-1のエリクソンの各「発達段階」ごとに行っておくべき「発達課題」があるという考え方も大切です。前の時期の発達課題をクリアーしておかないと,次の時期に心理的に問題が起こる可能性があるなどは,心の問題を考えるうえで365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@です(ただし必ず起こるわけではないです)。また,p.122の下の方に書かれているように,危機や葛藤を避けるのではなく,克服し乗り越えることが必要なようです。私の現在の「成人中期」でいえば,「停滞」を感じつつ,それを克服することが必要なようです。
POINT2
p.123下のほうのバルテスという人の発達の考え方もいいですね。
?獲得だけでなく喪失も起こるのが発達。
?エリクソンのいうような一般的な原則だけじゃなく,歴史的な出来事やある家族?個人に影響を与えるような人生上の出来事が,発達に大きな影響がありますよ,という点。
「その人がこれまでどういう人生を歩んできたのか」という個別的なこととエリクソンのいうような一般的な原則がからみあって,ひとりひとりの発達の道筋が決まるということですね。
POINT3
p.124?125のブロンフェンブレンナーの考え方は,用語は難しいですが,自分の属している集団からの影響だけでなく,親の仕事や国の政策なども影響してきますよということで,当たり前のことともいえます。「例えば,現在,なぜ児童虐待が増加しているかを理解しようとするとき,またその問題解決を図ろうとするとき,虐待が生じている場である家族への働きかけだけでは不十分であり,学校との連携,あるいは親の雇用環境の改善など,より広い視点からのアプローチが必要となることが理解できる」という文の意味は,かみしめる必要があるでしょう。
POINT4
p.125?は赤ちゃんから幼児期のお話です。「なぜ他人と気持ちを通い合わせることができるのか」「コミュニケーションができるようになるのか」をきちんと説明するのは心理学的にも難しいようですが,そのことが(1)に,また(2)の「愛着=アタッチメント」はキーワードです。また,愛着についての実験である「ストレンジ?シチュエーション」も有名です。
POINT5
p.129?131のピアジェは発達心理学者で最も有名な人です。感情面でなく,知的な活動の発達(認知発達)を主として研究しました。新しいことを今までもっている知識と関連させて自分のなかに理解して取り込むことが「同化」,新しいことが今までの知識で解釈できないために今までもっている知識を修正するのが「調節」というのは,小さい子どもだけでなく私たちもやっています。また,抽象的な思考ができていく過程である「感覚運動期」「前操作期」「具体的操作期」「形式的操作期」も有名です。「自己中心性」から次第に離れて,他人の立場?視点に立てる=「脱中心化」していくのがピアジェのいう発達のようです。
POINT6
p.132?のコールバーグという人の「道徳性の発達」についてや,p.134?のパーテンという人の「仲間遊び」の種類も有名です。
POINT7
p.135?の「自我同一性」=アイデンティティ(6章も参照),p.136?のレビンソンという人の成人期の考え方もおもしろいものです。
6章の「社会心理」も7章の「発達心理」も,ものすごくたくさんのことが紹介されています。どれか1つでも2つでもよいのでじっくり理解すれば,「心理学的な人間理解」の課題はまとめられます。また,福祉心理学科の方は,キーワードの意味や具体例を解説できるかをやってみてください。すべては理解しなくてもよいけど,少しでも心理学的な考え方に慣れていけると,後の勉強が楽しくなります。
(通信教育事務部 古藤隆浩)
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