【現場から現場へ】
[社会福祉援助技術現場実習] 私の社会福祉援助技術現場実習
通信教育部 科目等履修生(社会福祉学科3月卒業) 小笠原 隆
◆はじめに
これから実習をされようとしている皆さんは,実習への期待と不安を抱き,また,実習後の将来的な展望と希望を,ひとりひとり違った生活背景や人生経験の中で描いていることと思います。私も今年8月に実習を終えたばかりですが,これから実習を行う方々が一般的に気になるであろうことや特記すべき事項について,私の経験を踏まえて記していきますので,参考にしていただければと思います。
ちなみに私は年齢40歳代。2005年4月編入学,2007年3月卒業で,今年度,科目等履修生として7月から8月にかけて,全国でも数少ない視覚障害者を専門に対象とする社会福祉法人経営の指定身体障害者更生施設で実習を行いました。場所は東京都の多摩地区で,私の自宅からは30分程度で通勤できる所です。実習先は自分で探し,実習契約などは通信教育部に根気強く交渉していただき決定しました。第一希望の実習先で,通信教育部には本当に感謝しています。
なお,もともと私は実習先とは関係のない知的障害者デイサービス事業の作業?生活部門で臨時職の指導員として勤務していましたが,先日,たまたま実習先で支援員正職員の募集があったので応募したところ,採用内定をいただき,近日中に実習先が新たな勤務の場となることになりました。もちろん最初から転職や就職を目的として実習に行ったわけではありませんが,結果的には実習が転職のきっかけとなりました。実習中から心の中では,この実習先に転就職できたら良いな,と漠然と感じてはいましたが,まさかそれが現実になるとは思っていませんでした。
社会福祉士資格を取得する前からこのような結果になることは極めて稀なケースだとは思いますが,少なくとも実習先と実習生が良好な関係でなければ,こうした事は起こり得ないと思います。これから実習に行かれる皆さんが実習先で過ごされる日々はそれぞれでしょうが,少なくとも実習先の利用者?職員?経営者の方々と良好な関係を築かれることを願っています。それには,単に実習生としてだけではなく,福祉職に携わる者として,またひとりの人間として,本音で実習先の利用者?職員の方々と接し,現在自分が持つすべての力で誠心誠意ひたむきに支援業務や相談業務に励むことが365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@です。それは社会福祉士を目指す者の最低条件であり,実習生としての責務だと思います。難しいことではありません。接する人の人格を尊重し,本音で接すればよいのです。
ただし,各実習先に関わる法令や,その理念?実施などに関する最低限の知識は必要だと思います。実習前にぜひ下調べをしてください。また,実習生は,ただの見学者とは違います。福祉の素人ではありませんし,素人では困ります。能動的なインターンであることが求められることを気に留めて,実習に臨んでください。
それでは,実習開始前?実習中?実習後のそれぞれについて,皆さんが気になるであろうことを記していきたいと思います。
(1) 実習開始前
1. なぜ社会福祉士の取得を目指そうと思ったのか?
私が以前,行政書士という仕事に携わっていた時に,福祉を必要とされる方々から法的な相談を受けることがたびたびありました。その時は法務コンサルタントとして福祉にかかわっていましたが,専従で福祉とかかわりたいと思い,やる以上は社会福祉士の資格とそれに伴う技能?知識?技量が必要であると考え,通信教育で勉強をはじめました。
2. 指定科目単位習得で苦労したこと
もともと法学部出身だったので,ほとんどの指定科目は入りやすかったのですが,福祉心理学と医学一般については知識も基礎もまったくなく,私にとって異次元の世界でした。とにかく教科書をはじめ参考になりそうなものを手当たり次第読み漁り,関連ホームページを探しました。皆さんも基礎知識のない科目についてはおそらく私と同じことをされていると思いますが,基本的にはこれしかないでしょう。もがいているうちに何とかなっていくものですね。
3. 単位を習得するにあたり工夫した学習方法(普段の学習など)
工夫という程のものではありませんが,社会人なので,時間と期日に関係なくできるレポートでの単位習得を第一に,全体の学習を少しずつ進めていきました。仙台在住ではないので,私にはこの方法しかありませんでした。逆に,仙台周辺の方や大学に日帰りで通える方は,スクーリング授業を活用されると,レポート作成や単位習得の際に有利であると思います。
また,学習を進めるに当たって色々な意味でプラスになったのが,スクーリングで出会った仲間との交流でした。学習を進める上での情報やアドバイスを交換したり,よい意味で切磋琢磨し合うことができました。現在でも本試験に向けて,何人かの仲間との交流が続いているばかりでなく,試験と関係のない範囲でも,色々と助けられています。とかく孤独に陥りがちな通信教育では,仲間は365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@な存在です。
4. 実習開始にあたり不安に感じたこと
私には点字の経験がまったくありません。実習先が視覚障害者施設ということで,実習でも点字を多く使うのではないかと不安でしたが,事前に点字に関連する実習はないと聞かされ正直ホッとしました。実習後にわかったことですが,現在では視覚障害者が情報交換をしたり文書を作成する手段として,盲人用のソフトを付けたパソコンが主流になりつつあります。音声が出る盲人用のソフトさえ付ければ,視覚障害者でも健常者とまったく同じくインターネット,ワード,エクセル,Eメールなどが行えます。事実,パソコンを駆使している利用者の方が何人もいました。このことは衝撃的な驚きであり,視覚障害者への自立支援と環境整備について考えさせられました。
5. 実習で何を学ぼうと思ったか?
私の実習先の利用者は,全員が先天性の盲か弱視者でした。皆さんもアイマスクを付けた状態で日常生活を送ろうとすれば,途中失明の視覚障害者と同じ状態になりますが,それがいかに重い障害なのか,何を支援し相談すればよいのか途方にくれると思います。
私は,視覚障害者の支援や相談ができれば,分野は違ったとしてもある程度障害者福祉全般に対応できるのではないかと考え,あえて障害の中で最も重いといわれる視覚障害者関連の支援と相談を行う施設への実習を希望しました。そして,視覚障害者への支援の実践を通して障害者福祉のノウハウを学ぶべく,実習に臨みました。
(2) 実習中
1. 実習中どのようなことに悩みあるいは苦労し,どのようにそれを克服したか?
利用者全員が視覚障害者なので当然のことですが,身振り手振りなどの視覚的な伝達方法や,「あれ?それ?これ?あそこ」などのあいまいな言語はまったく通用せず,誰にでもわかる明確な言語か,触感,またはその両者を組み合わせるしかコミュニケーション手段はありません。触感を通してのコンタクトにはすぐに慣れましたが,我々目の見える者は視覚的な伝達方法を優先する癖がついていることに気付かされました。一から十まで明確な言語で誰にでもわかるように表現するということは,私にとっては思いの外難問でした。
私は,これを克服するため,普段は聞かないラジオ番組を聴きました。帰宅後は,その日の実習報告書を書いている時も含めて,就寝するまでの間ずっと聴きつづけました。特に,看板アナウンサーによるスポーツの実況放送は参考になりました。明確に誰にでもわかる言語で表現することは,皆さんがこれからどのような実習現場に行っても必要であると思います。ですので,ラジオでプロ野球実況放送を聴くことをお薦めします。
2. 社会人として社会福祉士を目指す学生へのアドバイスなど
他大学の通信教育でのスクーリングは1?2週間連続のものがほとんどで,社会人がスクーリング単位を修得することが実質無理なのに対して,東北福祉大学のスクーリングは土日祝日を中心に2?3日で行ってくれます。しかも地方会場でも行うので,私のように関東地方に在住する社会人でも,自分のやる気とちょっとした都合さえつけられれば,3年次編入学の場合2年間で単位を習得することは十分可能です。1年次入学の方であれば更に時間的に余裕があるはずです。しかも,社会福祉士指定科目はほとんど地方スクーリングで修得でき,科目修了試験も地方で受験できます。先生方も有能な教授陣が豊富に揃っていて,これらの諸条件を,社会福祉士を目指す社会人が利用しない手はありません。資源は十分です。要はその人のやる気と根気さえあればOKです。
実習先決定の交渉なども,他大学では有無を言わさず大学の都合で大学の指定施設へと機械的に振り分けられることが多いようですが,東北福祉大学では個別に対応してくれます。以上のように,東北福祉大学通信教育は,社会人が社会福祉士を目指すのに最適な環境と言えます。皆さんもこの環境を大いに活用しましょう。
3. 実習先での様子(プログラムや利用者?指導員との関係)
私の実習先は駅から徒歩10分程度の住宅街のど真ん中にあり,利用者?職員と地域との交流が多くかつ密です。そのためか,利用者も職員も皆非常に明るく,対人面での苦労は何もありませんでした。プログラムとしては,街中での白杖歩行訓練やサウンドトレーニングといった視覚障害者特有の訓練だけでなく,買い物訓練,洗濯?掃除?身辺処理などの生活実習訓練,パソコン訓練,盲人卓球?盲人バレーボール?強く歩くための強歩?エアロビクスとストレッチなどの体育訓練,授産や一般就労に向けた各種訓練,利用者個々に対するさまざまな相談,クラブ活動,地域での各種活動など,あらゆることについて実習させていただきました。
4. 実習中,特に印象が深かったこと
利用者の中には,さまざまな音を聞き分けることに関して超人的な能力を持っている方が多く,中でも利用者9人のメンバーで構成されるミュージックバンドは,毎年全国20カ所以上で3千人級の大ホールを会場とするコンサートを行っています。9月1日には東京多摩市のパルテノン多摩大ホールを満席にするコンサートが行われ,私も観に行きました。バンドのメンバーは,谷村新司さんや,さだまさしさん,島田祐子さんらプロのミュージシャンとも密接な付き合いがあり,先日のコンサートの司会進行はオペラ歌手の島田祐子さんが行いました。谷村新司さんはバンドのために曲を書いています。バンドメンバーの才能は非凡でどんなジャンルでもこなします。アルバムCDも3枚発売されていて,録音スタジオやスタッフはTOKYO-FM局が専属で担当しています。実習先の施設内にはプロが使ってもおかしくないスタジオがあり,職員もミュージックスタッフとして活躍しています。他の施設にはない特徴的な環境整備でしょう。音楽が大好きで趣味で楽器もいくつかやっている私も,障害者が自立をするにあたっての環境整備の場として,この先職員として大いにかかわって行きたいです。また,今回のコンサートの収益のほとんどは新潟中越沖地震被災者への義捐金として贈られました。施設の経営者?職員?利用者が一体となった当施設の理念のひとつである,普段世間からお世話になるばかりではなく自分たちが世間に対してできることはやって行こう,という精神の現れであり,非常に印象深いものでした。実習先が障害者に対して単に保護を与える場ではなかったことによって,SW(ソーシャルワーカー)とは,利用者ひとりひとりの有している能力の開発を目指し,利用者それぞれのQOLの実現に向けて可能な限りの環境整備支援をすべきことを,あらためて思い知らされた気がします。
5. 反省点など
私は,過去の業務で重度の知的障害者と接することが多かったことから,支援すること=第一に適切な介助を行うこと,という大きな勘違いをしており,その態度がある程度染み付いていたところがありました。大きな反省点です。
しかし,この実習において,支援すること=利用者の保有能力を最大限に引き出す環境整備をし,黒子に徹することである,と強く感じました。利用者に指示や押し付けで訓練などをするのではなく,訓練などを通して可能な限りの能力を引き出し,それを最大限に発揮できるように方向付けの手助けをする,そのような踏み台となることが大事であると知りました。実習を通して学んだことを,この先,SWとして大切な基本的態度としていきたいと思います。
(3) 実習後
1. 実習を終えての感想
実習期間はわずか1カ月足らずであり,一般企業の試採用よりも更に短い期間です。とても,すべてのことが分かるわけではありません。仕事も半人前以下しかこなせません。しかし,SWとしては大きな第一歩です。わずかな実習期間ですが,どこの実習現場の実習プログラムでも,短いながらも365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@なことが凝縮されているはずです。その凝縮されたエキスの中から,SWとしてこれから何をすべきか,どのような理念に基づいて福祉の世界にかかわっていくべきなのか,という自己覚知を含めた福祉専門職としての態度と方向性は見出せると思います。これから実習へ行かれる皆さんが,SWとしての第一歩を自分なりに掴んでいただけることを願っています。
2. 資格取得後の予定
先にも記させていただいたように,この実習先が近日中に職場になるため,この職場でSWとして,さまざまな支援業務?相談業務に携わっていく予定です。
◆おわりに
この実習が実現するまでには,自らの努力もさることながら,東北福祉大学通信教育部の教職員の皆様,通教生の仲間の皆様,実習先の職員?経営者の皆様,そして何より実習先の利用者の皆様に,本当にお世話になりました。ありがとうございました。皆様に心から感謝を申し上げ,私の社会福祉援助技術実習を終わりにします。
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