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VOL.03 AUGUST 2002

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[福祉心理学科] こころの成り立ち

大学院総合福祉学研究科科長
福祉心理学科 教授

佐藤 俊昭
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 「心理学概論」「心理学実験I」などを担当いただいている佐藤俊昭先生からの誌上入門講義です。レポート課題へのヒントも含まれています。ご一読ください。

こころの進化

 生命が誕生し,気が遠くなるような長い進化の果てに,人の身体と心が今日のような形にできあがりました。生命体の基礎は身体で,その目指すところは「生きる」ことです。ところが,生命が多様な環境で「生きる」ようになり,食べる,寝る,繁殖するなどの「生きる」過程が複雑化するにつれ,「よりうまく」生きるために,進化の過程で「心」をつくらなければなりませんでした。
 例えば,目指す獲物をつかまえるには,獲物の位置を絶えず見定めなければならないし,自分のジャンプ能力をも常時把握しておかなければなりません。心は,環境や自分についての情報を絶えずキャッチし,自分の行動をより効果的に繰り出すための装置として誕生したと考えられます。
 特に人類は,複雑なしくみをもった集団で暮らす種なので,他人の意図や感情を読み取る必要も切実でした。例えば,食物を独り占めにするためには相手を騙す方法を工夫しなければなりません。同時に,獲物をつかまえるためには協力も不可欠です。
 このようにして,人は,こころの多彩な働きと広大な心の世界をつくりあげたのです。特に「コトバ」のおかげで,人は,いま目の前に存在しないものをも心のなかに持ち込むことができるので,心の世界は,目の前の状況をはるかにとびこえて,過去と未来,さらには架空の世界をも作りだすことができます。
 こうして,芸術や宗教,後には学問も生まれましたが,同時に,現実とは対応しない不安や葛藤や苦悩をも生み出しました。相手にとっては思いもよらない感情を,相手の心の現実と思い込んで悩むこともあります。配偶者選択という生物学的意味は全く消えうせても,人は恋をします。それが心の世界です。
 心の働きは,最初は,例えば,食物の在りかを知る,危険な情報を速やかにキャッチする,配偶者として適切な異性を選択する,など,個々の特定領域に固有の心の働きが別々に進化しました。やがて,今から5?3万年前(後期石器時代)に,個々の領域を超える汎領域的な心の働きが発達しました。柔軟な知的働きです。そのおかげで人類史における「文化のビッグ?バン」が起きました。生活を向上させるための工夫が次々に開発されることになったのです。それを実現する上で特に365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@な役割を果たしたのがコトバでした。

「わたくし」とは

 心の世界に「わたくし」はなぜ,どのようにしてできたのでしょうか。人以外の動物に「わたくし」はあるのでしょうか。心理学では自我の「芽生え」とか,自我の「覚醒」といわれますが,日本語の「自我」は,難解で使いにくいコトバですが,簡単にいえば,センテンス(文)の主語となる「私」のことです。
 人は他者の行動をコトバで表現するとき,主語+述語の形で記述します。お父さんが帰った,ママが行っちゃった,など。
 次に,自分の行動を記述するのにも主語が必要であることに気づくはずです。最初は他人が自分を呼ぶコトバ,「Aちゃん」をそのまま使いますが,やがて「ボク,ワタシ」というコトバを使うようになります。これが使えるようになると,自分の身体,自分の物,自分の気持ちなどを次々にこの「わたくし」に帰属させるようになります。このような過程を経て,「わたくし」のこころの世界が「わたくし」以外の世界とは別のものとしてとらえられるようになります。
 わたくしとあなたの心の世界は,細部では違います。けれども同じ人類であるかぎり,大筋では同じです。顔や体型が一人ひとり違いますが,顔や手足があるという点で変わりがないのと同じです。

人類はETとわかりあえるか

 そのように考えると,ETと人類はわかりあえるかという大問題に遭遇します。ETとは宇宙からくる高等生物です。フィクションではETは苦もなく地球人と交信できるように想定されていますが,私には,人類がETと出会ったときに何が起きるのかについて少なからず心配しています。
 というのは,ETがどんなに優れた能力と文明をもっていたとしても,われわれの地球とはまるで異質な状況に生きていると思われます。そのような生命体は人類と理解しあうのに必要な共通基盤をはたしてもちあわせているでしょうか。同じ地球の人類なら,コトバが違ってもコミュニケーションは難しいことではありません。「こころ」が共通なのは身体と生活が共通だからです。身体の構造も遺伝子の数も基本的にはみな同じです。
 それにひきかえ,ETの「身体」と人類の身体に何らかの共通点があるでしょうか。ETの「身体」は形が自由に変化するアメ?バのようなものかもしれません。いや,アメ?バも細胞ですが,ETの「身体」は細胞からできているという保障もありません。もし,ETの身体がアメ?バのように固定した形のないものなら,そこで発展した数学も,科学も技術も,心理的な仕組みも,一切がこの地上とは似ても似つかない代物かもしれないのです。そうであれば,人類とETはわかりあえないのではないでしょうか。それに比べれば,古代であれ現代であれ,西洋であれ東洋であれ,人間の「こころ」の元型は共通です。それは身体と生活が共通だからです。
 こころの世界の成り立ちに身体が深く絡んでいることに気づかれたことと思います。もっとも,太陽系や銀河系をはるかに超える宇宙共通の生命の元型があるのなら,話は別ですが……。

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