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VOL.03 AUGUST 2002

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[OB MESSAGE] 時代からの伝言

社会福祉法人 岩手和敬会
総合福祉施設 青山和敬荘 施設長

佐々木 裕彦
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 岩手和敬会は,昭和42年2月1日に東北で2番目の特別養護老人ホームを開設し36年目を迎えました。
 私が勤めた当時の施設は,「姥捨て山」と呼ばれ,家族の事情が許さなければ家庭復帰は考えられず,死を待つ家として暗いイメージを背負ってきました。現場にあって,自宅で子どもや孫と暮らしたいという涙ながらの訴えを,私たちはかなえてあげることができませんでした。なぜなら,在宅サービスがまったくなかった時代で,自宅に帰せば家族共倒れが目に見えていたし,利用者本人が一番そのことをよく知っていました。
 日々あの世に旅立つ方々を見送りながら,より良い死を迎えることは今をより良く生きることにほかならないと開き直り,意識のある最後の瞬間に「あなたと知り合えてよかった」というその一言を聞きたいしまた自分も言いたくて仕事を続けてきました。一番つらかったことは,「くやしい」といって死んでいく人の存在でした。その子どもたちもまた同じでした。死んでいく本人も不本意なら見送る家族も不本意です。そのような壁に何度となくぶつかって,自分のやりたかった福祉とは何かを随分と考えさせられました。
 そして昭和50年代,県内第1号で在宅サービスを立ち上げながら,この20年間毎年のように人材育成に明け暮れてきました。そのエネルギーは,「自宅で暮らしたい」という夢の実現と,自宅で長く暮らすことによりやむなき施設入所の期間をできるだけ短くすることへのチャレンジでした。あの世に見送った数百人の方々とその家族が私に訴えていることは,不本意に死んでいく人と不本意に見送らなければならない家族を一人でも減らしてほしいという願いです。

 平成8年,社会福祉法人 岩手和敬会の30周年記念事業となる第2施設の建築担当として現場から呼び戻されました。良い施設の条件とは何かを,私はそれまで一緒に働いてきた現場職員に求めました。30年の現場経験豊富な職員から夢や疑問を集め,県?市?設計士とひとつひとつ詰めていきました。特別養護老人ホーム80床,ショートステイ30床,デイサービス,ヘルパー,在宅介護支援センター,そして他にない特色として訪問看護ステーション,18歳以上の方々の身体障害者デイサービスとショートステイ。
 また,知的障害者を守る親の会に喫茶店を運営していただいており,障害者の自立訓練や就労の場としての可能性を探っているところです。それに賛同した地域住民やボランティア,施設利用者が喫茶店の売り上げに協力しています。
 第2施設新築のコンセプトは,本人の望む生き様や死に様の実現,障害や制度の縦割りへの挑戦,地域と共に歩む施設,などをキーワードにして,やがてくる介護保険時代に応えるための準備を進めました。これらの考え方は,介護保険法や社会福祉法から新たな課題として問題提起され,契約方式?それができない判断能力にハンディをもつ方々の地域福祉権利擁護,サービスの質の向上と選択に資する情報開示や第三者評価,苦情対応,身体拘束ゼロ作戦等々今日的な課題にもなっています。
 しかし私は,これらを決して「新たな課題」とは考えていません。福祉現場の諸先輩が,時代時代の限界という壁にチャレンジし続けてきた永遠の課題であり,私自身が,これまで本当に利用者のために働いてきたのか,これから本当にそうしていけるのかが問われているのだと考えています。「新たな課題」という言い方は,そのような現場実践をしてこなかった人の表現だと思います。
 2025年,高齢化率がピークを迎えるこの年をどのように乗り越えるのか。私はその頃,寝たきりや痴呆で施設にお世話になっていると思います。そして,未来の障害者支援がどうなっているかを,あの世で待っている方々に報告しなければならないと思っています。その頃私をお世話しているであろう通信課程に学んでいる皆様には,大変かとは思いますが頑張っていただきたいと思います。みなさんだけに苦労をかけないように,50年ぶりの大改革といわれる介護保険を軌道に乗せ,そして2025年に全力を注げる環境をつくってバトンを渡して行きたいと思います。
 そのバトンは,時代時代の限界に挑戦してきた諸先輩の夢を引き継ぐリレーであり,夢途中にして病気で倒れた先輩,家庭介護で離職した先輩,子供の登校拒否で家庭に入った先輩等々の夢であり,社会の姿勢というバトンであることを決して忘れないでほしいと思います。 そして,あれやこれやと幅広い知識を学ばなければなりませんが,最終的に大切なことは,利用者について何を知っているかではなくて,利用者のために何をしたかでもなくて,利用者と一緒になってどのように生きたかが問われることです。私たちの努力の全ては,「あなたと出会えてよかった」というその一言を聞きたいし自分も言いたい,そのためになされるということを覚えておいて下さい。そして,そのような信頼関係を築くための方法や手段について,誰よりも知っていて実践ができる「人間関係の専門家」をめざして下さい。
 マザーテレサいわく「人間にとって最もつらく悲しいことは,貧困でも不治の病にかかることでもない,それゆえに見離され誰からも愛してもらえないことである」。あなたと関わる人が幸せでありますように……。

 最後に,私の知っている「幸せな人」は,自分が大切だと思うもののために一生懸命働いている人でした。知識や技術の勉強も大切ですが,「自分が何を大切にしている人間なのか」という自分探しの旅,終わりなき永遠の旅へのスタートラインにして下さい。自分を知ることは,たくさんの人生に触れ懸命に生きていることを互いに認め合うところから始まります。そして出会いの数ではなく,その出会いから何を学べるかという「感性」の問題も365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@だと気付くはずです。そこで構築されていく信念が,苦しいときの杖になり,敵と戦うときの武器になり,迷ったときの道しるべになると思います。
 科目修了試験や現場実習でお会いできることを楽しみにしています。困ったことがあれば遠慮なく相談して下さい。そしていつの日か,私のバトンを引き継いでくれる「現場の仲間」としてどこかでお会いしたいものです。健闘をお祈りいたします。

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