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【学習サポート】

“大学で「社会福祉」を学ぶ”ということ

社会福祉学科 教授
阿部 裕二
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「社会福祉」という言葉の氾濫

 現在の日本において,「社会福祉」という言葉を知らない人はほとんどいないでしょう。それほど私たちの社会に浸透していますし,言い換えれば氾濫しています。私たちの日常会話の中にも「社会福祉」の話題(言葉)が頻繁に登場しますし,選挙があれば党派や思想を越えて,多くの候補者が「社会福祉の充実」を掲げています。
 しかし,その中身を問われると人それぞれ違うことに気づかれるはずです。例えば,社会福祉を社会的支援を必要な人々に対するサービスと考える人,幸福と同様に考える人,そして施設職員などの従事者を考える人等々です。もっともそれぞれが,今日の社会福祉といわれる分野の一側面を示しています。したがって,どのような社会福祉の考え方が「正しく」,どのような社会福祉の考え方が「誤っている」という問いの立て方は無意味といえます。
 ここでは「社会福祉とは何か」を問うことはしません。これからの「学び」の中で自分なりの「社会福祉(観)」を構築してほしいと考えています。そこで今回は,大学で「社会福祉」を学ぶ視点,あるいは大学で「社会福祉」を学ぶ意味を改めて考えてみたいと思います。これからの「学び」に少しでも参考になればと願っています。なお,ここで述べる内容は,社会福祉学科としての統一見解ではなく,あくまでも一教員の私見であることをお断りしておきます。

社会福祉と資格

 今日,社会福祉関係の資格化が進んでいます。そのなかで,「資格取得=社会福祉について学んだ」という誤解も一部にあるように感じます。もちろん資格自体を否定しているわけではありません。問題はその「学び方」にあると思います。
 社会福祉という分野は「人間」そのものを対象としますから,複合性が求められています。敷衍(ふえん)すれば,社会福祉を学ぶことは,究極的には人間理解であり,そのために哲学,心理学,そして生活や地域を分析する社会学などの学際的な学びが365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@であると言えます。
 しかし,学際的に学ぶといっても,単にそれぞれの分野の知識量を増やすことを意味しているわけではありません。社会福祉を学ぶことは知識や技術を学ぶだけではなく,その「理念?理想?考え方」を学ぶことでもあり,知識や技術,とりわけ技術は「理念?理想?考え方」を実現させるために必要な手段に過ぎないということに留意すべきです。ただし,ここでいう「理念?理想?考え方」は,現実を無視して空理空論を展開する理想主義者ではなく,個々の現実に「何を守るべきか」という指標を持つことを言います。ある意味では〈不易流行〉(永遠に変わらないものと常に新しくなっていくもの)的視点が肝要なのです。

How toからWhy,Whatへ

 もう少し具体的に考えてみましょう。資格取得のための「学び」は,言い換えれば「どうすれば」資格が取得できるかという「How to」の世界での「学び」を意味するように思えます。世はまさに資格,ライセンスの時代ですし,しかも大学で教える現代の科学そのものが「How to」を中心に発達してきたわけですから,「How to」の世界の拡大は当然なのかもしれません。
 しかし,人間のニーズ(必要)は多種多様であり,たとえ同じニーズであってもその状況に応じて,一つとして同じ対応はありえません。このような人間そのもの(人間理解)を対象とする「社会福祉」だからこそ,「Why,What」の視点が一層求められてくるのではないでしょうか。「社会福祉とは何か」,「なぜ私たちの社会に社会福祉が存在するのか」,「自立生活とは何か」,「なぜ自立生活が困難なのか」そして,究極的には「人間とは何か」などの視点が,大学での「学び」の基礎に位置づけられると考えています。

おわりに 社会福祉の学びと生き方

 通信教育部での「学び」は「レポート作成による学習」と「スクーリングによる学習」から構成されています。そのなかでレポートは課題が与えられていますから,課題を淡々と機械的にこなしていくだけでは,受動的な「学び」となりWhy,Whatの視点が持てなくなります。とはいえ,レポート作成自体が大変な作業ですから,最初から「このような視点を持ちなさい」といっても無理があります。徐々にその人なりにWhy,Whatの視点を意識していけばよいのではと思っています。
 このような視点から人間理解の道を歩んでいくと,社会福祉を学ぶことは,自分自身の問題に突き当たることに気づきます。自分自身はどのように生きたいか,どのような自己実現を図りたいかがどこかで問われてくるからです。その意味でも,大学で社会福祉を学ぶことは,生涯にわたる〈自己実現の模索の旅〉への船出なのかもしれません。皆さんがそれぞれのペースで航海をされ,「目標」を達成されることを祈念しております。

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