【通信制大学院コーナー】
[教員研究紹介] 私の関心対象となっている研究領域
教授(社会福祉学専攻 専攻主任)
志田 民吉
現在,私の関心対象となっている研究領域は,一言で言えば「児童福祉に関する法律制度」である。一貫した研究対象は社会福祉の法律制度一般であり,社会福祉サービスと関連する法律制度との間を整理し,秩序だてることである。
平成12年6月施行の社会福祉法改正(旧?社会福祉事業法改正)で制度化された苦情解決制度については,一通り(と思っている),その理論的な部分を考え,そしてまとめあげ,2,3の論文集において報告した。「制度」であるから継続的な制度の実践を通じて,その後も研究対象として向き合っている。
苦情解決制度とほぼ同じ時期に,今日大きな社会問題でもある児童虐待防止についての海外制度研究の誘いを受け,厚生労働省の委託研究の形で継続して調査研究を行っている。いずれの大学,大学院でも大同小異ではあろうが,昨今の大学教員の負担倍増傾向は,確実に研究者としての余裕をもった研究活動は難しくなっているようであり,現実の問題として,正直,辛い部分である。とにかく日々30分?60分程度の時間を登校前の日課とし,海外制度の邦訳を試み,資料を蓄積するようにしている。
児童虐待問題は社会そのものが抱えている構造的な事情から生じている部分があり,ある意味では日本の社会の構造的な変化を条件としてのみ対応が可能な部分でもある。日本の文化的混迷とともに生じている,一つの過度的な社会現象でもあるように思う。
物事は,「こうすれば良い」とはわかっていても,そのことを実現可能とするためには必要な最低限の条件整備が前提にあり,それらの準備あるいは見込みもないままに飛び込むことは,かなりの危険な賭けの部分でもある。そのような賭けも,今からほんの数年前までは,運良く賭けに勝つこともあり得たが,現在の日本の社会では,そのような賭けは決して現実化しない確率の高い部分であることを理解しなければならない。社会自体の余裕,社会の遊びの部分が,20世紀の最後の20数年で使い果たされてしまったからである。これからのしばらくは,現実的な見通しの中で,確実に事実を積み上げていくことが大切な時代でもある。
話は戻って,児童の生活環境の変化に端を発する児童福祉関連の法律制度の見直し傾向は,一つの世界的潮流でもある。私の場合は,オーストラリアにおける制度の見直し動向を数年前から追跡調査をしている。その調査過程で得た一つが里親制度についてのものであり,本学の大学院研究誌(『東北福祉大学大学院総合福祉学研究』)の創刊号に,報告しているので興味のある人は読んでいただきたい。
次に,社会福祉領域にとっては,特に365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@だと考えるが,人権概念の理解について,これまでに公刊されているテキストの視点とは少し異なった部分からの説明を試みた。要約すれば,「人は生まれながらにして,人として扱われる権利を持つ」ということは一見単純明快で,またそのように理解し,それで人権の理解がなしえたと考えてきた,そしてそのことに何らの疑問をも持たず,「自分は人権は理解している」という社会福祉の関係者に,しばらく立ち止まって考えて欲しかったのである。「本当に人と人権の関係を理解していたのか?」ということである。
多くの教科書の一頁に「人は人権を有する」と,あまりにも当たり前に,あまりにも正々堂々と記述されていることから,人権理解に何らの疑問も持たずに,その先に進んでしまっていた自分が,そこにはいなかったであろうか。
人権理解に,仮に少しでも疑念が感じられれば,自身に問うてみることをお勧めしたい。なぜに人を殺してはいけないのか,なぜに自殺をしていけないのか,と。この自問に「親が悲しむから」とか,「殺される人間は痛みを感じるから」とか,挙げ句の果ては「世界人権宣言に書いてあるから」などの返事しか自身の返答として聴くことができなかった場合には,人権を理解していると思っていた自分に疑いを持ってみることが無難かもしれない。この疑義についての私なりの答えは,今年,3月に建帛社から刊行された『法学』(志田編著)に,その概要の記述を試みたので読んでいただければ幸いである。