【現場から現場へ】
[OB MESSAGE] 社会福祉研究とは
みどり保育園 園長
今川 元治
大学院での思い出
東北福祉大学には大学の4年間,専攻科1年間,大学院2年間の合わせて7年間の長きにわたって籍をおきました。その7年間で特に思い出されるのは大学院時代です。この2年間は私の50年間の人生の中で一番勉強をした(せざるをえなかった)時期でした。
私の場合大学院は一度職(PSW)についた後で,入学式前日まで仕事をしておりました。明日は大学院の入学式ということで職場の残務整理を終え神奈川を出発したのが夜12時を過ぎておりました。東北道を仙台に向けひた走っておったのですが,3時頃(福島県)に仕事の疲れか睡魔におそわれてしまい,「入学式は午後だしちょっと仮眠を」とパーキングで寝ておりました。ふっと目が醒め時計を見てびっくりです。だって午後1時だったのです。それから猛スピードで仙台に行っても間に合うことは不可能で,「まあ欠席はしかたがない……」とあきらめ遅ればせながら4時前に学校に到着。教務課へお詫び方々挨拶に行きましたところこっぴどく怒られてしまいました。なぜなら私は3期の入学生なのですが,実は3期は私一人だったのです。1時から学長をはじめ担当教授の先生方が唯一の入学生の私を待っていたとか……。まさか入学生が一人とはつゆ知りませんでしたが,翌日にすべての教授のところにお詫び行脚があったのは当然のことですよね(ついでに言えば,それ以降の院生の入学式は学部と合同になりました)。
授業が始まっても何せ生徒が一人なものですべてが教授と一対一の授業で,寝ることはおろか質問の拒否もできない状態でした。特に私は現場から来たものですから,現実的実務思考と教学的理想論とのギャップで教授と激論を交わしておりました。2期の田中治和先輩(現東北福祉大学助教授)が「今川さんもうちょっと謙虚に静かに授業を受けたら……」と心配してくれたほどでした。しかしこの時の激論が私に勉強というものをさせた最大の原動力であったことも事実で,そういう面においては一人であったことに感謝しております。そしてこの大学院でものを科学的に捉え,思考し,分析し,論述する必要性,そして365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@性を各教授の皆様,そして田中治和先輩より教わったことがなによりの財産となっております。
現場にて思うこと
大学院修了後実家のある山口県に帰り,家業の保育園経営と短大講師という2足のわらじを履く人生が始まりました。
保育園経営はそのままですが,大学の方はその後いくつかの短大をへて現在は山口福祉専門学校で社会福祉援助技術や社会福祉原論等を,社会福祉士養成課程,介護福祉士養成課程,精神保健福祉士養成課程の生徒に教えております。
そして今年度で教壇に立って23年がたちました。
しかしこの23年間で短大生も専門学校生も大きく様変わりしました。
学生の思考や発言そして能力等が少しずつ変化してきて,とまどうこともしばしばです。これは対象年齢が変わらないのに教える人間が着実に歳を重ねていることで起こる世代間ギャップと感じておりますが,同時に我が歳を振り返らざるをえないつらさをも感じています。
また現場で働きたいという者と,単に「資格」というものが欲しいということで学校にいる者との混在も授業進行を難しくしています。
さらには精神保健福祉士や介護福祉士,社会福祉士,保育士等の資格さえとればどこでもバリバリと仕事ができると勘違いしている者も多くいます。卒業後職場での悩みを寄せてくる者も多くいますが,その悩みの大半が自分を大切にしてくれない,職場集団になじめないといった学問的能力ではない,個人の資質や甘えが原因と思われる悩みで苦しんでいる者も多いのが現状です。
しかし一番大きく変わったと感じているのは,大学院修了者である同業講師たちです。私の時代は社会福祉という分野の研究は,たとえ児童福祉が研究テーマであっても福祉の根本である原論から始まり歴史,政策,制度と流れ,その後末端研究となる児童や老人?地域の福祉のあり方という研究に移行するということが原則で,「根幹知らずして末端わからず」が決まり文句の時代であったように感じます。よって経済学?法学?社会政策は自分の研究の基礎知識として持っていなくては,科学的な思考すらできないと叩き込まれました。このことは教壇に立ち福祉を教えるにあたって大変役に立ったし,福祉の未来展望をするには欠くことのできない学識でありました。
しかし最近の院修了者の若い大学講師たちと話してみると,各専門分野における末端研究についてはそれなりに勉強なさっているように感じるものの,根幹である社会福祉のメカニズムに関しては端的に言って勉強不足のように感じます。
在学院生?学生の皆様へ
社会福祉で人を救おうとするならば観念や理想だけでは無理で,制度(法律)を駆使して救う以外方法はないのです。そしてその制度は国の政策に基づき,その政策の基には社会福祉思想の歴史や根幹となる精神が脈々と流れています。この科学的メカニズムをわからずして福祉対象者の未来を見つめることは不可能と感じています。
この『With』を読む院生?学生の皆さん,もっと科学的に福祉を眺め,研究されることを望みます。
理想論をいくら並べても人は救えないことを知ってください。