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VOL.29 AUGUST 2005

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[関連施設紹介] 施設運営と収入《その4》

医療法人社団 東北福祉会 せんだんの丘 事務長
大森 俊也

 介護保険施設は,社会的な機能として常時定員の100%の利用があって当然なのですが,どこの施設でもさまざまな理由で利用率は低くなっています。そこで,いかに利用率の低下を招かないようにするかは,経営の安定と密接なかかわりを持ちます。今回は,施設運営と収入から(2)として,収入の減少の要因についてお話を深めていきたいと思います。

◆介護保険の財源

 介護保険の財源は,サービス利用者による負担金と被保険者(第1号,第2号)の保険料,保険者である区市町村と都道府県そして国が公費(=税)によってそれぞれ一定の割合で負担することとされていますが,介護認定者数の増加や重度化によって必要とされる財源は,今後ますます増えていくことが見込まれています。積極的な介護予防によって,介護保険の財源をどの程度圧縮ないし分散できるかは未知数ですが,自己実現の喜びを得る上に必要なことであり,介護保険制度の“持続可能性を”高めることにつなげていきたいものです。

◆報酬単位の改定

 介護保険制度は,2000年4月に始まり,2003年に第1回目の報酬改定,次回は2006年となっています。私たちサービス提供事業者は,サービス提供の実績を受益者である利用者からの負担金(10パーセント)として,また,国民健康保険団体連合会に対して介護給付請求(90パーセント)を行なって介護報酬として収入し,また,介護保険以外の収入等によって事業経営をしています。その事業経営を支える介護報酬は,サービス提供事業者による適正な介護サービス提供を前提とし,その実績を踏まえ,事業経営が成立するよう報酬単位が設定されてきました。介護報酬は,3年毎に見直しすることが定められていますから,施設経営に大きく影響受ける報酬単位の改定は,とても気になるところです。2003年の第1回目の報酬改定では,介護給付費は総額でマイナス2.3%,平均で居宅給付費がプラス0.1%,施設給付費がマイナス4.0%となりました。現在,2006年の改定に向けての作業が進められています。

◆安定した経営のために

 せんだんの丘は,東北福祉大学のグループ関連法人ですが,その経営は,介護報酬を主として事業収入する医療法人社団です。“福祉に必要な医療の実践”のために「総合的なリハビリテーションの展開」を事業の理念としていることは,前号までの事例で一部をご紹介したところです。
 “運営と経営がベストマッチで収支できるようにする”ことは,とても難しいことですが,私たちのような取組みをひとつのシステムモデルとして情報発信していくためには,必然的に提供されたサービスの顧客満足度と決算が大きな目安となってきます。そのためにも安定した経営を意識化しているところです。
 介護保険の事業は,安定した収入に対し予定した支出に大きな変化がなければ順調な決算となります。しかしながら定期昇給等の人件費支出や施設設備の修繕費,将来事業への運用などを考慮すると恒常的に収入を伸ばし,事業成長させていく必要があります。つまり,収入を増やすには入所サービスだけでは限界がありますし,居宅サービスへの新展開を図るためには,(1)人員に関する基準 (2)施設及び設備に関する基準 (3)運営に関する基準などにもとづいて事業の充実を図ることになります。新規に起業の場合,利用者の受入計画を実行に移しても収支の見合がつくまでには,相応の日数を要しますのでタイミングも肝要となります。
 事業経営には,中?長期の収支シミュレーション(事業計画?予算根拠)が必要ですが,当然定期昇給にかかる人件費増や修繕費増等も予定しなければなりません。介護報酬改定は,3年毎のためにその先が見えない状況にあります。モチベーションの上がる職場環境づくりのためにも一層の努力をしていかなければならない理由は,ここにあります。

◆施設給付の減収

 せんだんの丘では,1998年の設計案の時点において既にユニットケアの介護環境に着目してきました。グループケアのユニットとなっているため従来型の施設よりも面積増となり,その分,建設費コスト(償還額)も大きな施設となっています。また,職員の一人ひとりが利用者個々のQOLを適切にとらえていくためユニットを施設環境の整備だけにとどめず,リハ職員やケアワーカー,歯科衛生士など人員に関する基準にはない職種や所定を上回る人員体制をとっています。
 施設の収入は,介護度が高くその利用に間断のない状況があると比較的安定した経営をすることができます。しかしながら様々な要因から待機申込者はいても収入の減少を招いた実例を振り返ると次のような要因と特徴がありました。これらのことを踏まえ,相談職員体制の見直しを行うとともに内部連携を円滑にするため介護職員を補充採用しました。このことにより内在的要因が軽減し状況が一部改善しました。

外在的要因

  1. 他施設からの急な入所案内
  2. 入院?退院までの間の空室
  3. 家族(入院先)都合で入所遅延など

内在的要因

  1. ユニットを対象者別としている?(認知症,介護,医療,在宅復帰)
  2. 不安要因?職員の傷病等のケア体制,療養室の位置関係
  3. 相談員の業務の一極集中

利用者に起因する要因

  1. 入院や他施設利用によるキャンセル
  2. 体調不良によるキャンセル
  3. 差額室料を理由としたキャンセル など

 このような要因を排除する不断の努力は,単に収入を落とすということだけではなく,より多くの方に利用していただくという本来の社会的機能を念頭に置かなければなりません。

 次回は,介護報酬と介護コストの理解へと進めてまいります。

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