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VOL.36 JUNE 2006

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BOOK GUIDE

明日の記憶 光文社

 ある日突然若年性アルツハイマーと診断された男を主人公とする小説。広告会社に勤めるバリバリの部長だったのに,記憶を徐々に失っていくことでどんなふうに人生が変わっていくか。しごと上忘れてはいけないことをメモだらけにして病気とたたかうが,閑職にまわされて後退職に追い込まれ,通っていた陶芸教室の先生からもだまされ。そんな日々でも娘が結婚し,孫ができて,取引先のイヤ味な課長からは思わず励まされ,とつらいことばかりではありません。
 自身も急性骨髄性白血病とたたかう俳優?渡辺謙が読み終えてすぐ映画化したいと感じ,実際に今年の5月から映画も公開されています。渡辺謙氏のインタビュー(http://www.ashitanokioku.jp/からリンクされているYahoo! moviesのHPより)によれば「難病ものを描いたとしても,よくありがちな,つらく悲しく泣いて終わりという作品にはしたくなかった」「日常を描きたいと思いました。だって,病になろうとも,また次の日が来る。腹も減るし,風呂も入るし……。そうやって生活をしていかなければならないんですよ」とあります。原作でも,記憶の大切さとふつうの日常生活の大切さを味わわせてくれて,静かな感動という読後感が得られます。
 「認知症」の家族の側から書かれたこれまでの小説『恍惚の人』(有吉佐和子著?新潮文庫),『黄落』(佐江衆一著?新潮文庫)とちがって,「アルツハイマー」本人の立場から書かれており,福祉職の方は視点を変えさせてくれるのではないでしょうか。心理学に関心のある方も,記憶がなくなっていくと人格も崩壊していく(「自分が自分でなくなっていく」)すがたが描かれていて興味深く読めると思います。また,『アルジャーノンに花束を』(ダニエル?キイス著?ハヤカワ文庫)に感動したことのある方は「得ることばかりがその人にとって幸せとは限らない」という気持ちを本書でも味わえると思います。どうぞ一読してみてください。

(Pon)

■荻原(おぎわら) 浩著 『明日(あした)の記憶』 光文社,2004年 定価1575円

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