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VOL.51 MAY 2008

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[社会福祉学科] これから社会福祉を学ぶ皆さんへ
―大学で福祉を学ぶ意義について―

准教授 関川 伸哉

 社会福祉学科へ入学された皆さん,期待と不安を胸に新年度を迎えられていることと思います。同じ新入生であっても,1年次入学の方もいれば,3年次編入学の方もいることでしょう。また,これまで福祉以外の分野に携わってこられた方,専門学校などで社会福祉を勉強してこられた方,長年にわたり福祉の現場で活躍されてこられた方など,各人の経歴は様々であろうと思います。ところで,社会福祉を学ぶ際,学びの環境として専門学校や短期大学などいくつかの道が考えられます。その中で,4年制大学を選択された理由は何でしょうか? おそらく,答えは複数存在し,個々人の目的によっても異なるかと思います。そこで今回は,本学で社会福祉を学ぶ,すなわち「4年制大学で福祉を学ぶ意義」について,考えてみたいと思います。
 21世紀に入り,社会福祉の領域は大きな変革期を迎えました。ご存知のように,介護保険法や社会福祉法の制定により,福祉サービスは利用者一人ひとりが主体的にサービスを選択?決定する時代へと変わりました。いわゆる,従来の措置から支援制度への移行です。福祉サービス利用者の増加とサービス内容の多様化が進む中で,サービスの質の確保が365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@な課題として取り上げられてきました。それでは,サービスの質の確保とは一体何でしょうか?
 時折,皮肉を交えて「今や20世紀型福祉は通用しない! 愛情,人情,思いやりのみではサービスの質は確保できない」と学生諸君に話をします。福祉サービスの提供者は,真の専門職であるべきだと私は考えます。すなわち,提供されるサービスには素人にはない専門性が活かされ,そこに専門職としてのアイデンティティが求められます。また,それらのサービスは,長年の経験と勘のみに依存する「技能」ではなく,科学性を根拠とした「技術」であることが365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@となります。
 医療の世界においては,「EBM(Evidence Based Medicine)」という言葉が広く普及しています。EBMとは,最良の根拠(Evidence)に基づいた医療と訳され,臨床に携わる者の主観(勘,経験,習慣)ではなく,客観的な理屈に基づいて医療を提供する一連の行動指標をいいます。さらにEBMには,医療とは個々の患者さんの価値観や意向(好み,関心,望み)を考慮したうえで行われるべきことが示されています。すなわち,現在利用可能な最も信頼できる情報を踏まえて,目の前の患者さんにとって最善の治療を行うことが重視されます。
 臨床的な診断や治療は,ともすれば長年の経験や勘,さらに権威者の意見によって決定されてしまいがちです。このような方法には根拠が存在しないため,最善の方法とは言い難く,もっと他によい方法が見つかる可能性は否定できません。根拠のない医療の提供は,個々の患者さんに不利益を与えるのみならず,医療費の無駄遣いへもつながります。ただし,誤解のないよう申しあげますが,長年の臨床経験を無視し,根拠のみにとらわれた医療を推奨しているわけではありません。素晴らしい医療従事者とは,長年の臨床経験(Art)を活かし,適切な根拠に基づいて,両方をうまく活用しながら個々の患者さんのリスクを最小限に止め,最善と思われる医療を提供する者を意味します。EBMの導入を具現化するためには,「(1)科学的Evidenceの構築」,「(2)豊富な臨床経験」,「(3)患者さんや利用者主体のサービス提供」の3つの要素を適切に機能させる必要があると考えます。
 これを福祉専門職に置き換えて簡潔に考えてみます。(2)としては,臨床現場での様々な事例に対する経験やセミナー参加等で学んだ知識が挙げられます。(3)には,利用者の方々の主体性を大切にして自己決定を促す過程が当てはまります。では,(1)とは何でしょうか?
 臨床現場において,「本当にこの方法で良いのだろうか? 他にもっと良い方法(サービス)はないのだろうか?」といった疑問を感じることが多々あるかと思います(疑問を感じない方は危険です…)。個々の疑問を解決するには,それらの疑問に関する情報が必要となります。ここでいう情報とは,過去に発表された関連する研究論文や専門家の意見を意味します。得られた情報の信頼性や再現性については個別に吟味する必要がありますが,一般には,研究論文を参考にすることが根拠としては望ましいといえます。「(1)科学的Evidenceの構築」とは,福祉サービスを提供していく過程で生じる疑問や問題点を解決するための情報(根拠)を収集し,まとめていく(構築)ことです。発表や論文を通して明らかにされてきた研究成果こそが,Evidence構築のための貴重な情報であり,ここに「研究」を行う365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@性と意義が存在します。
 大学とは教育機関であると共に研究機関でもあります。大学で社会福祉を学ぶ意義の一つとして,「福祉サービスの質を確保」するための「Evidenceの構築」を支える「研究」を身近に感じてほしいと思います。皆様のこれからの通信教育部での学びが実り多いものになることを願っています。

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