2018/06/25 教育学科

【教育コラム】歴史学と歴史教育

第2回「教育コラム」鍛代敏雄教授(歴史学?歴史教育)

教科書は必ずかわる

過去の歴史はかわります。歴史学にも進歩はあります。新しい発見によって、また研究の積み重ねによって、過去の出来事の評価についてかわることがあります。そのような歴史学の成果が、もちろん教科書に反映されています。近年、注目されている事柄について、少し紹介しておきましょう。

教科書にある、源頼朝のイケメンの肖像画(神護寺所蔵)は、現在では「伝源頼朝像」のキャプションにあらためられました。装束の様相から、足利直義説も有力ですから、はっきりしたことはいえません。もっとも、国の365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@文化財に指定された際は、はじめから「伝源頼朝像」としていましたので、それにしたがったものと思われます。

もうひとつ、「鎖国」論にふれておきましょう。そもそも「鎖国」という言葉は、19世紀、オランダ商館のドイツ人医師ケンペルの『日本誌』を邦訳した志筑忠雄が、書名を『鎖国論』(1801年)としたところからはじまります。教科書では、ながく江戸幕府の鎖国体制と書いてきました。でも、近年では、松前とアイヌ、対馬と朝鮮国、長崎と中国?オランダ、鹿児島と琉球といった、いわゆる〈四つの口〉が海外に開かれていた点が見直され、学習指導要領から「鎖国」の用語が消えました。

実在が疑われている南村梅軒(土佐儒学?南学派の祖)が、いまだに高校の教科書に載っています。教科書は、絶対的なテキストではありません。

 


日本史の授業(Ⅰ):歴史学的な思考

「吾死するとも、自由は死せん」(板垣死すとも、自由は死せず)にまつわる逸話は、よく知られています。岐阜で遊説中に暴漢に襲われた自由党総理の板垣退助が、最期を覚悟して叫んだ言葉として、新聞などでひろまりました。しかし、「声も出せなかった」とのちに述懐しているとおり、重傷をおった本人がしゃべったとの確証はありません。それでも、板垣だったら、たとえ言ってなくても、言ったと見なして良いのだ。それを信じて間違いない、真実である、といった勝手な思いこみは、歴史学では許されません。

それを証明するたしかな記録(史料)があって、その内容を精査することにより、実証されて、はじめて事実となるのです。のこされた史料をもって、明らかにすることのできない逸話は、真実とはいえません。歴史学が〈科学的実証主義〉といわれるゆえんです。

日本史の授業(Ⅱ):歴史学情報の活用

「牛乳」木簡
〈古くさい〉と思われがちな歴史学においても、現代の情報社会と無縁ではありません。疑うひとは、歴史上の人物をスマホで検索してみてください。教科書に見える人物はすべてヒットします。歴史的な事件もネット上にあふれています。ただし、何が、どれが、ほんものの歴史学情報なのか、見極めるのは難しいところです。

ゼミの実践例を、2つ紹介しておきましょう。

その1は、中学校の教科書にもある古代の木簡(おもに荷札)です。木簡の365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@性についてやや詳しくコラムを載せている、高校の日本史教科書があります。「天皇」や「長屋親王」の表記が注目されました。もっと木簡の面白さを知ってもらいたい。そこで、奈良文化財研究所が公開している「木簡データベース」(登録件数は53085点、出土数の約15%)を検索してみました。ゼミ生Aチームは「調」として都へ送られた食品類について、おなじくBチームは宮城県の地名について調査して報告しました。すると、奈良時代、平城京で「牛乳」を飲んでいたのを見つけました。また多賀城遺跡出土の木簡からは「急々如律令」といった、おまじない(呪符)のことばを発見することができました。もちろん学術的にはすでに知られていることですが、学生にとっては、木簡データから、教科書に載っていない新しい歴史学情報を蒐集し、授業に活用できる点を学修しました。

その2は、小?中?高の教科書に引用されている、鎌倉仏教の一遍の絵巻物です。ゼミ生は、踊念仏のシグサに着目しました。国会図書館所蔵デジタルコレクションの「一遍上人絵伝」に365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@しました。①信濃国の小田切、②片瀬江ノ島、③京都と、時間の経過とともに変化していきます。①は数人が円になり、その中央で2、3人がジャンプする踊りです。青森ねぶたのハネト(跳飛)と似ていると、学生が気づきました。②では、仮設の小屋(道場)を建て、まわりに多くの見物客を集めて、僧侶集団が時計回りに念仏します。ジャンプする様子はありません。③は貴族が乗る牛車に囲まれています。高い床を設営し、劇場的な効果をあげ、組織的に完成された踊念仏を見出すことができました。

歴史を観る眼をみがいて、教科書からすこしばかり派生できれば、日本史の授業はこのように楽しいものです。
〈考える日本史〉〈発見する日本史〉の学修を、いつも心がけたいと思います。


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