東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館が所蔵する「種痘施行図」は、1857（安政4）年に江戸幕府が蝦夷地のアイヌに「種痘（天然痘ワクチンの接種）」を実施した様子を題材として、幕末から明治にかけて活躍した絵師?平澤屛山によって描かれたアイヌ絵です。絵は箱館奉行所の1室を舞台に、アイヌの老若男女80数名、幕府の役人や派遣された医師たち12名が色彩鮮やかに描かれています。同館はこの「種痘施行図」を含め、183点のアイヌ関係資料を所蔵しています。

 

今回「種痘施行図」が掲載された書籍は、青木歳幸?Wミヒェル編『天然痘との闘いⅣ　東日本の種痘』（岩田書院、2023年3月）という医学史専門書で、多面的?学際的な視点から各時代?各地域における先人による天然痘との闘いを詳らかに描き出しています。とくに、4巻シリーズの最後となる同書は、種痘史研究の基礎的資料の発掘や提供という面からも大いに意義があるものとされています。

 

教育学科の下山忍教授は、編者からの依頼を受けて「種痘施行図」の解説を執筆するとともに、絵そのものもカラー口絵として同書の巻頭を飾りました。下山教授はすでに『歴史資料館　日本史のライブラリー』（東京法令出版）や『文化財が語る日本の歴史』（雄山閣）でも「種痘施行図」の社会科（歴史）教育上の意義について発信していますが、今回の掲載により、本学の貴重なコレクションの1つである「種痘施行図」が医学史関係者にも広く知られていくことが期待されています。