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【通信制大学院コーナー】

[修士論文指導] 心理学における研究の進め方?論文の書き方(3)

福祉心理学科学科長
木村 進
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 新年を迎えて気持ちを新たに研究に仕事に取り組んでおられることと思います。昨年は,通信教育が始まったこともあって,例年以上に忙しく,あっという間に過ぎてしまいました。先日の「大学院研究科委員会」で,通信制修士課程修士論文の作成手順(スケジュール)が検討され,以下のように決まりましたので,お知らせしておきます。

  1. 論文構想提出…………………2003年1月末
  2. 第1回中間レジュメ提出……2003年6月上旬
  3. 第2回中間レジュメ提出……2003年10月上旬
  4. 修士論文提出…………………2004年1月
  5. 修士論文口述試験……………2004年2月

(詳しい案内は通信制大学院事務室よりの連絡をご覧ください)

 すでにご承知のように,このスケジュールの間に,最低でも3回担当教員の指導を受けることになります。また,上記の論文構想とか中間レジュメは論文提出の義務要件というわけではありません。したがって,提出しなくても論文提出は可能なのですが,このスケジュールにそって研究を進めることが,あなたがたにとっても,また指導する立場からしても,滞りなく修士論文を書きあげるためにベストではないかと思われます。とりあえずは「論文構想」が期日までに提出できるように頑張りましょう。論文構想がしっかりできれば,順調なスタートが切れます。

●7 データの収集と分析

 データを集め,それを分析し,(統計処理をして)結果を明らかにし,それに基づいて論文を執筆するというのが,論文作成までの手順であることは,すでに説明しました。ここに来るまでに,すでに仮説が明らかになっていますから,その仮説に基づいて,どのようなデータを集めればいいかということもはっきりしています。問題は,それをどのような方法で集めればいいのかということです。
 調査をするにせよ,実験をするにせよ,検査法を使うにせよ,集められたデータが信用できるかどうかが問題になりますので,データの収集は,客観的?科学的な方法で行われなければなりません。言い換えれば,どのような方法を使うか,被験者(対象者)はどういう人で何人くらい必要か,集められたデータはどのような方法で,どのように分析するかなどが十分に検討されなければならないということになります。この検討が不十分なままに集められたデータは,何の価値もないことになってしまいますので,指導教員と十分にディスカッションしてください。
 紙数の関係で詳しく具体例を挙げることはできないのですが,私が指導した卒業論文を例にとって,簡単に説明しておきましょう。ある学生が,「性格というのは思いこみの部分があるのではないか。だから,その思いこみを変えてやることができれば,行動が変わるのではないか」という仮説のもとで,研究をしたいとやってきました。そして,性格特性として「内向性」を選択し,性格検査をして「内向性」が高いという結果の出た学生で本人も「内向的」だと思っている学生を選び出しました。その学生を2つのグループに分け,それぞれ共同作業をさせて,行動観察をしました。1つのグループは,その後私が1人ずつ面接をして,(性格検査の結果)「あなたが思っているほど内向的ではない」という説得をしました(もちろん嘘です)。もう1つのグループには,そのような説得は行いませんでした。その後,もう一度同じ共同作業をさせて,行動観察をしました。その結果私の説得を信じた学生のグループは,1回目の共同作業に比べて,2回目の方が行動が活発になったという傾向が得られ,仮説は支持されました。
 この研究では,検査法,観察法,調査法の3つが使われています。具体的には,どのような作業をさせるか,その作業中のどのような行動を指標として使うか,思いこみを変えるためにどのような方法を使うか,また,どのような性格検査を使うかなどが検討されたことになります。ちなみに,この場合の被験者の数は,1グループ20名,合計40名でした。また,私の説得を信じた被験者が80%,20%は「そんなはずはない」と思ったそうです。もちろん,「嘘」については,データ収集後に再面接して謝りました。
 心理学の研究において使用されるさまざまな方法について説明する余地はないので,その点については,指導教員に相談し,各自で研究法についての学習を進めてください。

●8 データ分析ということ

 集まったデータを目的に応じて分析し,どういう結果が得られたかを明らかにするというのが次のステップです。
 上記の研究例について,具体的に書いてみます。上記の研究は,(1) 内向性の人を抽出するための分析→(2) 行動の変化を明らかにするための分析の2つが必要でした。この場合(1) については,性格検査のテキストに示されている通りにやればいいので簡単ですが,(2) については,もしかしたら男性と女性で効果が異なるかもしれないと予想されるなら,男女を分けて分析する必要が出てきます(いうまでもありませんが,男女に分けて分析するかどうかは,最初に決まっているはずですし,それによって,被験者の数も違ってきます)。このように,分析した後に,統計処理という課題が出てきます。
 統計処理になじまない研究もありますし,統計処理をして結果を出すことへの疑問が論じられることもありますが,例えば「調査法」によってデータを収集した場合,普通の手順として,結果を統計処理するということが行われますので,ここで,統計処理についてふれておきたいと思います。
 とはいっても,統計処理の具体的な方法について述べることは到底無理ですので,ここでは,なぜ統計処理が必要なのかということについて,初歩的な説明をするにとどめます。このことについても,具体的には担当教員の指導を仰いでください。
 私は,日本とアメリカの小学生の学力比較の研究を15年ほどやっていました。その中に日本とアメリカの小学生に同じ算数の問題をやってもらい,比較するということが含まれていました。その結果が,例えば日本の小学校5年生の平均が80点,アメリカの5年生の平均が60点だとしたら,誰が見ても,日本の子どもの方が成績が良いという結論を出すでしょう。しかし,80点と75点だったらどうでしょうか。さらに,80点と77点だったらどうでしょうか。5(3)点しか違わないと受け取る人は「成績に差がない」という結論になり,5点の違いは大きいと思った人は,「日本の子どもの方が成績が良い」という結論になってしまいます。つまり個人の判断に委ねていたのでは,同じ結果についての解釈が異なるということになります。そこで,(この場合は,両者の差について)客観的に判断する方法として「統計法」を使うことになるわけです。
 同じことですが,何かについて賛否を問う調査において,賛成が70%,反対が30%だったら判断に迷いはないと思いますが,60%と40%,55%と45%だったらどうでしょうか?
 別の角度から見てみると,上記の調査が,1000人に聞いた結果である場合と,10人に聞いた場合では,数字のもつ意味が異なってきます。そういうことも含めて分析することができるのが「統計法」ということになるのです。
 望ましいのは,計画の段階で,分析にはどのような統計法を使うかということまで検討しておくということです。
 統計法というと,数学が苦手な人には頭が痛くなるような理論が並んでいるという印象ですが(実際,私が学生のころは,その理論や計算式に基づいて「手計算」しなければならなかったので,大変でした。パソコンはおろか電卓さえなかった時代でしたので),今は,統計ソフトが充実しているので,データ入力を正確に行えば,かなり高度な統計処理も簡単にできます。尻込みしないで挑戦してみてください。

●9 論文の構成

 実際の作業手順とは異なるかもしれませんが,ここで,論文の内容についてふれておきます。実際には,もっと早い時期に論文構成は決定しているはずですし,データの収集や分析をしながら,書ける部分は書いておくという形で作業が進んでいくはずです。
 研究の内容によって異なる点が出てきますが,論文の主な内容は,だいたい以下の通りです。

第1章 問題意識
 ここでは,研究の目的と意義について詳しく書きます。
第2章 これまでの研究と仮説
 研究テーマにそって,これまでどのような研究が行われてきているか,あるいはどのような関連研究があるかということを具体的に述べることによって,自分の研究の位置づけを明らかにします。
 それを踏まえて,仮説について,理論的な説明を加えながら述べていきます。
第3章 方法
 どのような方法を使って研究を行ったかについて,詳しく具体的に述べるとともに,その方法が妥当であるということを論じます。
第4章 結果
 表や図を活用しながら,結果について述べます。研究というのは結果が命ですから,わかりやすい表記を心がけるとともに,必要な部分は解説を加えながら書いていきます。統計処理の結果も説明に加えます。
第5章 討論,結論,残された問題
 第一に,仮説が検証されたかどうかをきちんと述べ,それを踏まえて,何がわかったか,何がわからなかったかを明らかにします。仮説通りの結果が出なかった部分,明らかにならなかった部分については「なぜか」ということについて検討します。結論を述べ,残された問題は何かということを明らかにします。

 最後に,参考文献?引用文献の一覧を付け加えることも忘れないで下さい。

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