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VOL.42 MARCH 2007

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[関連施設紹介] ユニットでのリハビリテーション

医療法人社団 東北福祉会 介護老人保健施設 せんだんの丘
事務長 大森 俊也作業療法士 松浦 真由

 せんだんの丘は,2000年4月に開設した入所5,通所1のユニットケアを採る施設です。入所部門には,看護,介護,作業療法士が全ユニットに配置され,ケアマネジャーをはじめ支援相談員,実習教育相談員,言語聴覚士,管理栄養士,歯科衛生士などのスタッフがトータルにかかわっています。先頃行われたカンファレンスの様子と作業療法士の役割についてご紹介します。

◆カンファレンス

 利用者の心身の機能や疾病状態をふまえた在宅復帰(入所)を目標とする介護保健施設サービスは,「看護,医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話」として多職種の協働によるケアが進められています。ケアプランは,ケア計画の全体としてまとめられていきますが,利用者個々の介護,看護,リハビリ,栄養管理,口腔ケアというサービスの具体的な内容は,それぞれの専門職が計画を立案します。専門職の視点から,(1)独自にかかわること,(2)他職種に協力を願うことなどについて理解を得る場が必要とされなければなりません。これがカンファレンスです。
 カンファレンスへは,当施設職員だけでなくご家族,退所間近では地域の介護支援専門員などを交えて実施されます。

◆計画の実施に向けて

 ご本人の了解を得ましたのでH.O様のカンファレンス事例をご紹介します。
 89歳女性,息子さんの勧めで県外から当施設を利用。要介護1。長谷川式22点,身体機能面では,糖尿病のため末梢神経障害により膝関節からつまさきに感覚麻痺があります。4点杖を使用しての手引き歩行は,20メートルほどであれば,休まずに可能。入所直前までヘルパーに週3回,家事援助と身体介護の組み合わせで派遣を受け,週1回のデイサービスの利用をしてきました。食事,片付け,洗濯など自分で何とかこなしてきましたが,寒さによる健康への心配もあり少しでも体力をとりもどさせたいという理由で施設利用に至っています。
 「リハビリテーション実施計画書」にお示ししたとおり,作業療法士の立案した実施計画書は,暫定計画,原案提示,カンファレンス,原案修正,承認決定という過程をふまえて実施されていきます。

◆本人の思い?家族の思い

 本人は,子供たちに心配をかけたくないという思いを強く持っており,利用後には,仙台もしくは札幌近郊の家族のもとで暮らそうかと考えていたのですが,施設利用を経験して,「こんなにいいところはない。ずっと利用していたい」として思いを膨らませています。家族の思いは,ひとり暮らしが無理になったという判断から施設利用に結びつき,「高齢ではあるが生活の自立度を高めたい」というのが利用動機でした。

◆“生活“そのものが”リハビリテーション”

 当施設では,「看護,医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話」という文字通りのチームケアが実践されるなかでのキーワードを「生活に必要な医療の提供」としています。リハビリについても実施計画原案のもとにカンファレンスを行い,生活を支えるすべてのスタッフが理解しあった上でサポートするという合意形成の中でケアが進められます。本人の生活?暮らし方を知ることは大切ですが,個々のスタッフがまちまちな理解や曖昧な解釈をしていると本来の「その人らしい」姿に接近した生活支援は成り立ちませんから,的確な情報交換のもとに合意形成されることが365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@です。
 今回,筆者は,カンファレンスに参加する機会を得ましたが,そこで筆者が驚いたことは,業務としての分掌が速やかにやりとりされたことでした。ケアワーカーから,家族の思いである自分での洗濯を実施するには,作業療法士の直接関与が必要という意見が出されました。まぎれもなくその背景には,リスクマネジメント(危険覚知?危機回避)とそのためのアセスメントを作業療法士の視点で行ってほしいという思いがあるものと強く感じました。作業療法士は,家族の要望や本人の動機づけ,ニーズに応えるためのプロセスとして受けとめていました。次回には,リスクマネジメントを踏まえ,安心感が一層強められるカンファレンスになるものと推察しましたし,同席したご家族にもしっかりと伝わっていたと思いました。

◆IADL

 日常生活上の複雑な動作を手段的日常生活動作(IADL:Instrumental Activity of Daily Living)といいます。ADLを基本にした日常生活上の複雑な動作のことをいいますが,具体的には,買い物や洗濯,電話をかける,薬の管理,金銭の保管や管理,乗り物の乗降動作等,そして最近では趣味活動も含められるようになっています。IADLは,生活に密着したアクティビティーとして効果的に自信をつけられ,在宅復帰すなわち「普通の暮らし」につなげていく指針となっていきます。

◆リハビリテーション実施計画書

 計画書に盛り込まれた内容は,ケアプランに反映することとなります。介助と支援,維持と向上,つまり「できること」と「できないこと」の仕分けであるアセスメントがしっかりできているかどうか,意欲の有無と動機付けも含め,どのようなニーズであるかを理解し,焦点化する必要があります。ニーズには,フェルトニーズ,ノーマティブニーズ,プロフェッショナルニーズなどが整理され,潜在的なニーズであるか,顕在化したニーズであるかによっても計画内容,進捗も異なります。
 さて,掲載のリハビリ実施計画書は,初回の暫定計画から本実施計画へとアップデートした(案)ですが,読者はこのリハビリテーション実施計画書をご覧になってH.Oさんのイメージをどのようにとらえるでしょうか。カンファレンスの回数を重ねる毎にIADLを重視したものになっていくイメージを想像できますか(多くの事例に接すること,先輩からの経験談は,砂漠のオアシスと同じであると思います)。
 すでにご紹介済みのところですが,せんだんの丘では,口腔ケア,栄養ケア?マネジメントによる計画書もあります。さまざまな視点からサービスへのアプローチがなされ,職員一人一人が,利用者の個々の生活機能を高めるよう努力する,その手引書として計画書が準備され,実践されています。

計画書1 計画書2
*クリックすると拡大して表示されます

◆見えていることに気づくこと

 ユニットの職員間において,同じ座標軸で理解しあうことができることは,とても大切です。お互いに見えていることに気づき,気づいたことを伝達すること,もう一歩進めてカンファレンスの場に家族や本人が同席することは,とても有意義であるということです。そもそもケアは,双方向のコミュニケーションですから,サービス提供者からの一方通行のサービスでケアが完結してよいということではありません。本人の努力,家族の協力を引き出す“ストレングス”を基盤としたICF方式でプランニングされることには意義には大きながあります。従来のように介護上の困難や問題点,課題を直接カンファレンスに表出した場合を想像してみてください。同じ気づきを与えられたにしても,“問題点”と言われると気まずさが走ってしまいます。見えたこと,気づかせてもらえたからこそ,新たに気づいたことに近づこうとする力が動機付けとなり,協働する姿勢が明確になってきます。

※の箇所は,読者の勉強のためのチェックマークです。

◆これからの施設運営とリハビリ職員の役割

 ご存じの通り,介護老人保健施設の役割は,長期入院を是正するために在宅復帰を目指すよう1987年に老人保健法の改正により施設整備されるようになってきました。介護老人福祉施設(特養)も在宅に復帰する可能性を持ち備えた施設ですし,終の棲家となりうる有料老人ホームも誕生しました。介護老人保健施設の役割は,積極的な在宅復帰の場でなければならないのは明確です。しかしながらリハビリ職員の基準定数では,その役割の大きさは,利用者への技術提供者というだけではなく,組織のシステムコーディネーターの役割も担います。このことは,在宅生活者への支援にも言えることで,せんだんの丘では,訪問看護ステーションの活動を通じて在宅住環境や在宅介護者への介護軽減を図ってきましたが,リハビリテーションスタッフによる訪問サービスが確立される必要性を訪問看護ステーションの運営から実感しています。
 せんだんの丘では,ユニット毎に作業療法士が配置され,入所利用者20人に対して1名,通所リハビリテーションでは,40名に対して3名配置しています。訪問看護ステーションには,6名の作業療法士が活動しています。老健の機能を前面に出すためには,在宅ケアとの両立を図ること。その鍵を握る職種は,リハビリテーションスタッフであることに違いありません。

◆むすび

 さて,これまでロングランで「せんだんの丘」の特徴を掲載させていただきましたが,いかがでしたでしょうか。スクーリングの際に見学をしていただいた方もいたり,ウィズを通じて多くの出会いがありました。学ぶということは,一時の試験対策というようなものではなく,通り過ぎて喜ぶ学びはまだまだで,本当の学びは,延々と続くもので決して楽なものではありません。
 筆者自身のことですが,「楽じゃないけど楽しい」ということ,続けることは誰のためでもなく,いつかは自分に帰るものとして,そんな思いで自分を確認しながら執筆してきました。締め切りにいつもギリギリでご迷惑をおかけしてきました。この場をお借りしてお許しをいただきたいと存じます。私自身としても良い勉強をさせていただきました。ご指導くださいました諸先生,読者の皆様,せんだんの丘の職員仲間に心から感謝申し上げます。
 末筆になりますが,通信の学部生のみなさんには,次のステップである資格取得,国家試験の合格や大学院を目指して一層の楽しさを見つけていただきたいと思います。多くの仲間が頑張っていて,決して孤独ではないことを忘れないでください。誰のためでもなく,自分のためである。一歩前にススメ! これからも健康に留意され,頑張っていきましょう。


筆者プロフィール:大森俊也
北海道出身 1980年卒(社会教育学科)社会福祉士,介護支援専門員
2004年 東北福祉大学大学院修士課程修了,2000年 せんだんの里開設準備室?マネージャーを経て,2002年 せんだんの丘,現在に至る
非常勤講師:社会福祉援助技術論,同演習,福祉と経営など

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