2022/12/27 社会福祉学科

卒業生 松本敏希さんインタビュー詳細版:実学臨床教育編

社会福祉学科卒業生の松本敏希さんのインタビューは、Google meetで行われ、松本さんを在学中に指導した三浦剛先生、阿部利江先生、佐藤泰伸先生も参加されました。ここでは本学の実学臨床教育について、「東北福祉大学のDNA」には掲載できなかった、3人の先生方からの様々な解説も含めて紹介します。

外出支援の様子
外出支援の様子

- 実学臨床教育で学んだことについて教えてください。

松本さん:東北福祉大学の建学の精神?教育の理念でもあります「行学一如」を私が肌で実感したのは実学臨床教育の存在であったと思います。
私が在学していた当時の実学臨床教育は、1年生の5月ぐらいから、特別養護老人ホームで実習ができるようなシステムだったと思うんですよね。5月に一回見学に行って、その後6月ぐらいから本格的な実習がスタートして、4年間で740時間ぐらい実習をしました。

当時のカリキュラムだと、特別養護老人ホームに通い始めた頃は、実習先の受け入れ施設かはらは「コミュニケーションがメインで」って言われるんですね。やはり直接の支援業務に大学に入学したばかりの学生が携わると、リスクもありますし、今の私は業務で実習生と関わることもあるので、実習生にとってコミュニケーションが大事だということは、重々承知しているのですけれども、一年生の頃って、「コミュニケーションがメイン」ということについてもどかしい部分もありましたし、かといって、その場にいて「私って何ができるんだろう」という葛藤もありました。


実学臨床教育と介護福祉士課程は同じ時期から始まりました。一年生の頃の介護福祉士課程の授業は、専門的なところに特化したというよりは、基礎的な学問というか、分野横断な知識的学習が多かったので、なかなか実践と結びつけるまでの知識の追いつきがなかったです。しかし2年生ぐらいになると、介護技術だったりとか、より専門に特化した学習が増えてきて、実習先の職員さんがやっていることや、職員さんが関わっているコミュニケーションの仕方などにも視点が向くようになりました。

その後、3年生からは就労継続支援B型事業所での実習を選択し、三浦剛先生に担当教員としてご指導いただきました。就労継続支援B型事業所には身体?知的?精神など様々な障がいがある方々が通っており、行事や作業を通しての直接的支援や事業所チラシ作成?行事や支援に向けた連絡調整業務などの間接的支援について考察し、障がい福祉分野の課題を知るとともに、「何が自分にできるのかな」って、よく考えるようになりましたね。


東洋学園
東洋学園

-大学での4年間で、今の仕事につながっていることはありますか?

松本さん:東北福祉大学での4年間では数えられないほど多くのことを得ることができました。その中でも、「気づく力」を磨く機会が多くあったと思っています。自身の生活や仕事場のルール、クライエント(福祉サービスを受ける人)に対するアセスメント(現在の状況を調べる、または知る)場面など多様な場面で「気づき」は新たな発見や課題へとつながるスキルです。変哲もない日常であっても、「気づき」を多くもつことで生活へ彩りがつき、豊かな生活へと変わっていくことと思います。支援者として介入する際も、「気づき」があることで、クライエントの新たな一面やストレングス(強み)を見出し、ともに考えるヒントをもつことができていると感じています。

-もうすこし説明していただいてもいいですか?

松本さん:福祉を学ぶ中で、「気づく」ためには知識が必要だということはいわれていました。もちろん知識をいろいろ蓄積するための、勉学の期間も頂きました。そして実学臨床教育という、学んだことをすぐ実践できる場があったことで、「気づき」を定着させやすい環境だったのかなと思っています。そういう意味で、実学臨床教育が、そのような実践の場を私に作ってくれたことは、私にとっては大きな意味を持つことでした。介護福祉士課程の授業の中で学んだことを、「こういうところを視点としてみよう、『気づき」として持ってみよう」という実践が実学臨床教育の中ですぐできたので、そうすると「気づき」の幅というか、アセスメントの幅とかも全然変わってくるので、そういったことで知識が定着しやすかったと思っています。

先生方に伺います

-「気づき」とはどのようなものでしょうか?

オンラインインタビューに参加の三浦剛 教授
オンラインインタビューに参加の三浦剛 教授
三浦剛教授:「気づき」は、松本君が言うように、対人援助に関しては現場に出て気づくことが多いですね。授業でも知識としての「気づき」について「利用者本位」だとか、「同じ人間として」とか哲学的なことは習うけども、それが実際にどういう事なのかは、現場で気づくことなんです。「あ、なるほど、これが同じ人間ということなんだ」って、そういう「気づき」は非常に大事なんですが、気づいただけではだめで、その気づいたことに対してのスーパービジョン(*)や教育的な関わりがなされないと、なかなかその気づきが、専門性として身に付いていかないと思うんですね。彼の場合は、現場でのいろんな「気づき」が得られたときに、それをきちんとフィードバックするような、教育的な経験ができたのかな、というふうに思っています。

※スーパービジョン
対人援助サービスに携わる人に対して、指導者が考察を深めるための視点を提供したり、バーンアウトを防止するために支持的なかかわりをしたり、業務量を調整するなどして職場の環境を整えるなどの、ワーカーの成長を促すためのかかわりのこと。

- 実学臨床教育の中で、アウトプットの場というのは日常的に得られるようなものなんでしょうか?

佐藤泰伸助手
佐藤泰伸助手
佐藤助手:松本君が実学臨床教育を履修し、併せて介護福祉士過程を受講していたことで、介護福祉士過程の中で学んだことを、実学臨床教育の他の学生にアドバイスするという場面がいくつかありました。自分たちが今学んでいることを他の学生達と共有する、これは一つのアウトプットだと思っています。実学臨床教育は講義で学んだことを現場でどのように活かしていけるのか、学生たちにとってこれは一つのメリットではないでしょうか。




阿部利江講師
阿部利江講師
 阿部利江講師:福祉現場での体験を積み重ねるばかりでなく、その「場」で得られた問いや気づき、成果を他者に伝える時間を設けています。仲間や教員、お世話になっている施設?機関の皆様からフィードバックを受ける際には、報告資料を作成するなど、発表に向けた事前準備も必要です。
受け身の姿勢で、独りよがりの考えや学びに留めず、客観的に福祉現場を捉え、根拠に基づく発言をする機会が繰り返えされることは、真の実践知を高めていくことにつながります。
福祉実践と理論構築の場は、決して易しい場とは言えませんが、松本君は実学臨床教育を通して、自らの成長を感じていたのではないでしょうか。きっと、現在の仕事にもつながっていると思います。