【学習サポート】
[社会教育学科]
「福祉」の視点をもって生涯学習を支援する
助教授
濱田 淑子
社会教育学科に入学,進級おめでとうございます。この一年間それぞれの所期の目標を実現しようと努力する皆さんを,心から応援したいと思います。ともに学びあう日々を大切に,積み重ねていきましょう。
◆「幸せ」を感じる生涯をおくるために
社会教育学科の皆さんは卒業までに社会教育に関する専門科目と,社会福祉関連の科目を履修しなければなりません。教員になるにしても社会教育施設の専門職員になるにしても,またボランティアで生涯学習のサポートを行うことになっても,「福祉」の視点をもった人材育成の教育を受けられるという本学の視点は,他大学では得られない強みです。
日本は,諸外国がかつて体験したことがないほどのスピードで,少子?高齢化への道を駆けていると言われます。そしてモノの豊かさを充足した反面,環境破壊の問題や何か満たされない思い,子どもたちを取り巻く環境の変化。そこからさまざまな問題も生じてきています。このような状況への対応の社会的役割が社会教育にも求められていると考えます。
高齢者が抱く「学び」への欲求,ボランティア活動などの社会貢献への願い。子育てを終えた女性が「まだ眠っているかもしれない自分の可能性を探したい」と考えること。職業を持ちながらも「自分に付加価値を付けるために資格をとろう」と思うこと。このような学習への欲求を満たそうとする人々を支援するのが社会教育の大きな役割です。一人ひとりの人間が生涯にわたって,それぞれの年代にあって,「豊かな人生だな」「幸福だな」と感じながら前向きに生きること。それが「福祉」なのだと思います。
その意味では社会教育は人間の「福祉」に大きな役割を担っているといえるでしょう。
◆社会教育施設?芹沢銈介美術工芸館
生涯学習を支援する社会教育施設に,公民館,児童館,図書館,博物館施設などがあります。その中の大切な施設が博物館施設の中の美術館です。皆さんは本学に美術館があるのをご存知でしょうか。
「芹沢銈介美術工芸館」は,文部科学省から博物館相当施設の指定を受けています。海外の大学の多くはUniversity Museumを持っていますが,日本でも,大学に図書館があるのと同じようにその必要性が求められています。本学はこうした動きに先がけて1989年,美術館を建設しました。
博物館施設には専門職員として学芸員が置かれています。残念ながら通信教育では学芸員資格を取得することはできません。しかし,社会教育主事として生涯学習の観点から博物館施設の運営にかかわる仕事につくことは可能ですし,現在,学校教育の場でも博物館施設との連携が求められています。そして解説ボランティアなどのようにボランティアとして博物館施設にかかわる場面も多くなってきています。
私自身,開館以来芹沢銈介美術工芸館で学芸員として仕事をしてきましたので,ここでは館の活動や特徴を簡単に紹介し,卒業までに社会教育の実践施設としての美術工芸館を有効に活用していただきたいと思っています。
当館の教育普及活動の柱に「生涯学習団体との連携」と「学校教育との連携」があります。実際に,地域の生涯学習団体である老人クラブ,社会学級,PTA,市民センター,各種文化サークルなどによる利用が行われ,市内だけではなく県外の小?中?高校?大学が授業時間内での利用を行い,そのことへの対応にも積極的に取り組んでいます。
◆感性を磨く場所?芹沢銈介美術工芸館
当館は東北福祉大学の学生,教職員の感性教育の一端を担っています。芹沢銈介は日本を代表する染色工芸家として人間国宝に認定されました。それとともにデザイナーでもありました。伝統的工芸品を生活に活かすための新しいデザインを手がけ,建築デザイン,各種商業デザイン,有名な文学作品のブックデザイナーでもありました。また本の挿絵を描くイラストレーター,特色ある文字デザインを行ったタイポグラファーとしても高い評価をえています。それだけではありません。諸外国のさまざまな民族が生み出した美術工芸品のコレクターとしての存在も忘れることはできません。
当館は芹沢銈介が制作した作品と,作品を完成させる前の下絵や試作染,芹沢工房ともいえる「芹沢染紙研究所」から世に出された美しい絵はがきやカード,風呂敷,うちわ,扇子,商業デザインの分野に含まれるマッチのラベルやレストランのメニュー,パンフレット,ポスター,包装紙。さらに私家本や装幀本などを含めると3,800点にのぼる所蔵があります。また「芹沢銈介コレクション」と呼ばれる世界の工芸品コレクション1,000点,開館以来東北福祉大学が収集した宮城県のやきもの,東北の染色品を中心にした「東北福祉大学コレクション」340点があります。これらの貴重な資料を学内はもとより地域の方々にも見ていただこうと年4回の特別展,企画展を開催しています。展示が変わる毎に『With』やホームページで紹介していますので是非ご覧ください。そして美術工芸館に来てください。
現在,英国ロンドンのV&A Museumで「International Arts and Crafts」展が開催中です。この展覧会はその後2006年6月まで米国の美術館を巡回する注目すべき企画です。19世紀に英国で起こったArts and Crafts運動がヨーロッパ,アメリカに波及し日本では柳宗悦の創始した民藝運動という形で花開くという内容です。芹沢銈介は日本の民藝運動のコーナーで大きく取り上げられています。当館からも屏風作品を貸し出しています。このような世界的に評価の高い芸術家の作品を映像ではなく実物にじかに,しかもいつでも触れることができるということは,まさに本学学生の特権です。
社会教育施設である芹沢銈介美術工芸館を社会教育学科学生である皆さんの体験学習の場として積極的に活用してみてください。工芸館は「地域に開かれた大学構想」の一環として建設された施設です。実習を希望する時には,どうぞ工芸館を訪ねてみてください。