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VOL.32 DECEMBER 2005

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[精神保健福祉論] キュアからケア ケアからシェア

助教授
阿部 正孝

 仙台駅構内の酒処で刺身や焼魚を前に酒を飲み合い,1カ月振りの再会に乾杯していた私たちである。「あべさん,今,各地で(実践)活動が活発になり,精神保健の世界では風が吹いてるよ。あべさんどう思う……?」と口に焼酎の入ってるコップを近づけながら,生活のしづらさという言葉を造った彼は私に語りかける。口調は穏やかだが,いつも私を気づかうように,悟るように語り,そして熱く,あったかい。
 彼は現在,北海道にいるが,元々地域で暮らすための障害者への支援活動を日本で最も早く行い,それだけに最近の全国の動きを見て感じるものがあるようだ。
 確かに彼の言う通り,現在の精神保健福祉の世界は「変革」と言って良いくらい渦巻くように色模様が変わった。この20年の間に……。
 1987年精神衛生法が精神保健法と名前が変わり,社会復帰施設が制度化され,社会福祉基礎構造改革,障害者基本法,地域保健法など制度,施策,支援体制が矢継ぎ早に改革され,新しいものの 咀嚼 ( そしゃく ) のしきれなさと頭のチャンネルの切り換えの難しさに四苦八苦である。
 知的?身体?精神の3障害の統合,ケアマネジメントの導入,市町村の精神保健福祉業務の開始など現場業務への影響が小さくなく,障害者福祉の世界の地殻変動を感じる。
 これらは近年の国際的な動向,精神障害者および家族,そして精神科領域で働くソーシャルワーカーなどの専門職の運動により吹かせた風が,それまで堅固だった医療や行政の小窓に送り込まれ,社会復帰施設が制度化されたり,各地の民間の精神病院がグループホームやデイケアなど病棟外活動に踏みきらせる(以前からこの活動に活発だった病院も多くあるが)ことになり,生活支援センター,保健福祉センターとの連携を模索しながら,一歩踏み込み退院促進の取り組みを始めている。
 これらの一連の動きを見ると,従来精神医療が医療完結型の医療モデルと言われていた頃,精神障害者は障害の問題としてでなく,疾病の問題としてのみ考えられ,施策などがキュア(治療)中心となり展開されたものから,蜂矢英彦氏が精神障害者を疾病と障害の共存と唱えて,精神保健法などで社会復帰施設が制度化され,ケア(支援?お世話)の充実した地域福祉の時代への変換に移行していると肌で感じる。
 酒を酌み交わし,「今までサービスの受け手であった人も送り手になれるようなまちづくりが必要だね」と彼に話を向けると「もう少しでできるかも……。地域住民と一緒にまちづくりの担い手として,その人らしい生活ができるよう仲間を援助できるサービスの送り手になるかもね」と実践家らしく夢を具体的に話す。彼と来月も逢うことを約束し別れ,仙山線の電車の中でいろいろと改めて考えている自分があった。
 今まで嵐を避けてきた人たちが,今やっと社会という平地に窪みから出て,社会の薫風に浸ろうとしている。自分らしく生きる,あるいは生きられる生活を実現するために街に出てきたのだろうと思っている自分があった。
 彼らはいつも周囲を見ている。そして,家か病院しか見ることができなかった彼らが,作業所や支援センターを利用し,過去の社会での暮らしにくさを抱えながらも,新しい地域の受け皿を受け入れている。そのため,自転車に乗る者,肉まんを食べて歩く者,朝に新聞配達の姿を見る者,そのバイクの音を聴いて目を醒ます者,しばらく生活の匂いから離れていた人たちが新しい社会の息吹きを感じているのだと想像する。
 このような展開は,まだ充分とは言えないが障害の受け入れが社会で始まっている印象さえ持つ。ケアからキュアへの変遷,そして障害は社会のものとして障害を受け入れ社会に分配するシェアの時代も近いのかと──「社会に分配する」とは,たとえば,障害者の抱えている「障害」は「社会構成員全員の障害」として共有し,共に抱えることです──。そう思い自分のアパートに着いた。
 そう言えば,別れ際「あべさん,障害者の住みやすい街は健康な人にとっても過ごしやすい街だよ。そういう街づくりのサポーターになりたいね」と言った彼の言葉を布団の中で想い出す。

 今,精神保健の移り変わりはノーマライゼーションの具現化のため急がれ,熱い想いで仕事をしている人が目立つ。
 精神科領域で働いて通信の勉強に来ている人たちはこのような荒波の中で働きながら学んでいることを大切にしてほしい。また,それ以外の仕事を持っている人も,ご自分の住んでおられる地域にノーマライゼーションの実現をかなえられることを望んでいる。

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