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VOL.32 DECEMBER 2005

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忘れても,しあわせ 角川文庫

 「私はどこにでもいる中年のオバサンです。……そんな私に『介護』は突然にやってきたのです」から始まる本書は,ふつうの主婦が介護のために義母と同居し,認知症(痴呆)や福祉の世界に少しずつ詳しくなっていく様子が生き生きと描かれています。認知症になった親を介護する家族の気持ちがよくわかる一冊です。
 骨折して入院した義母の様子がおかしいけど病院ではなかなかわかってもらえない,兄弟の誰が同居するのかなど,「認知症」と診断されるまでの右往左往ぶりは,専門医や相談できる機関が身近にあれば,と思わされます。また,同居後の義母が頑固に「氷室(義母の家のあったところ)に帰りたい」「病院や施設には行かない」「私はひとりで死ぬ」「財布がない,数珠がない」と何度も何度も同じ主張を繰り返す記述は,それだけで介護する立場の大変さが痛感できます。
 ただ,本書の著者は逆境でも積極的です。初期認知症の訓練?予防施設「スリーA」(静岡県)を利用し,「認知症」をかかえる家族の会にも参加していきます。家事援助サービスも利用し,その関係から義母を絵画教室に送り出します。家族の外の多くの人々との出会いが生きる力を与え,自分の介護にも自信ができた,という記述は,介護者へのサポートがどうあればよいのかを考えさせられます。その自信が,義母とのコミュニケーションもよくしていきます。「孤軍奮闘していたころの私とはもう違っていた。私はひとりぼっちではなく,私を受けとめてくれる夫や家族や,仲間がいた」(p.237)という著者のような心境に介護する人がなれればよいのでしょうが……。
 さらに,義母が訓練を受けている間に自分も福祉のことを学びたいと「B大学通信教育部」に入学するあたりも,学生の皆さんにも共感をもって読んでもらえるのではないでしょうか。「社会福祉士になりたいと大きな望みを抱いてはいたが,本当はもっと簡単なこと,病気を持つ人の気持ちや,介護者の気持ち,そして家族を取りまく地域社会の人びとの気持ちを知りたかったのかも知れない。……痴呆は本当に奥が深い。福祉はそれ以上に奥が深いように思う。それを勉強しようと,肩ひじ張ってかまえるのではなく,ゆっくり歩もう」(p.287)というような気持ちで勉強をされている皆さんも多いと思います。
 本書は「折り梅」という映画にもなっているそうです。「認知症」やその家族を描いた小説『恍惚の人』(有吉佐和子著?新潮文庫),『黄落』(佐江衆一著?新潮文庫)と読み比べるのもお薦めです。

(Pon)

■小菅もと子著 『忘れても,しあわせ—認知症の義母と暮らして』 角川文庫,2005年 定価620円(単行本版 日本評論社,1998年)

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