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VOL.41 JANUARY 2007

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[心理学概論] レポートを書こう(2単位め)

 前号(40号)で,「心理学概論」の1単位め課題を題材にして,レポートを書く際の取り組み方の一例を示してみました。今号では,「心理学概論」の2単位め課題を題材にして,レポートを書く際の「考え方?ポイント」のようなものを紹介できればと思います。

 2単位め課題は「動物の心と人間の心の違いについて考えてみなさい」です。

↓

 専門用語が入っている課題ならば,その専門用語の意味?定義を述べるところから始めればよいのに,この課題はちょっと面食らうかもしれません。
 自分なりに何か違いを考えてみようとしたときに,まずペットのことを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。飼い主が帰ってくると喜んでしっぽをふる犬,金魚ならゆったりと泳いでいるだけ? でも金魚だってエサには大喜び? 犬には心はあるけど金魚にもある? ……考える材料として大変よいと思います。もちろん具体例としてレポートにとりあげるのもいいでしょう。
 ポイント1 自分の身のまわりのことでレポートの題材になるものをさがしてみてください。

 しかし,大学のレポートは感想文や日記やエッセイとは違いますから,やはりアドバイスや教科書は読んで,その学問がどういうふうにその課題をとらえようとしているかは勉強する必要があります。
 「心の働きと心の世界をもっているのは人間だけだろうか。この点をよく考えてほしい」で始まる『レポート課題集』のアドバイス全体のトーンとしては「動物も人間も心はもっていて共通点も結構ある。だけど人間はことばを獲得したことで科学や芸術を生み出した反面,悩みが多く危険な戦いもしてしまうなど他の動物とはちょっと違う心をもっている?」という感じで書かれています。佐藤俊昭先生はこのように考えておられるのでしょう。
 ポイント2 まず『レポート課題集』のアドバイスを読んで,その課題をどういうふうにとらえたらよいか,何を書けばよいのかを考えてみよう。

 細かい点までアドバイスを読んでみます。
 「まず,知覚とか記憶などの心の働きが人間以外の動物にあることには異論はないであろう。意見が分かれるのは,第一に,感情,意思,思考,想像,言語などの働きがあるかという点である……」。

↓

 ここで「心の働き」を知覚,記憶,感情,意思,思考,想像,言語などに分けてみるという考え方にハッとさせられました。1単位めのときに読んだ教科書p.1にも「私の心は,何かを感じたり,想像したり,考えたりするし,何かを欲したり,意思したりするし,ときには動揺したりもする」とあります。
 ここで「心って何?」と考えてみます。すると,心理学の教科書の章立てに出てくるようなことを「心」が行っているのではないかと考えました。
 心=感覚,知覚,認知,記憶,想像?イメージ,学習(する心),言語(を操る心),思考,感情?欲求,動機づけ,意思,自己意識?反省,心の世界……。
 ポイント3 「心」のような当たり前の言葉でも,どういう意味なのか一度考えてみるのもよいかもしれない。

 さらに考えると,動物にもいろいろいます。人間に近いチンパンジー,サル,犬,猫,……イルカ,クジラ(哺乳類)から鳥類(カラス,ハト……),昆虫(ミツバチ,アリ),貝,なめくじ,くらげ,そしてアメーバーなどの単細胞生物まで多種多様。人間だって,大人と1歳児ではかなり違います。
 とてつもなく大きな課題であることが見えてきました。
 次ページのような表をつくるとよくわかりますが,「動物の心と人間の心」といったって,「記憶」のことをヒトとハトで比較するのか,「感情」のことをヒトとなめくじ(なめくじも甘いものが“好き”で塩辛いものが“嫌い”なようですから)で比較するのかなど,いろいろなテーマがあります。無限の組合せがあって,ひとつひとつ書いていったらとても2000字ではおさまりません。
 でも,このような表をつくって,いま勉強したり書いたりしているのはどの部分なのかを整理しておくと,議論が混乱しなくてよいのかなと思います。
 ポイント4 大きな課題では,小さいテーマに分けて考えていくとよいことが多いです。
 ポイント5 小さいテーマに分けて論じた場合に,最初のレポート課題も見失わないようにしよう。

種\心 感覚……記憶……学習 言語 思考 感情?欲求……心の世界
ヒト?大人
ヒト?1歳児
チンパンジー

イヌ

カラス

ミツバチ

ナメクジ

アメーバー
 

 では,書くべき内容の素材集めです。残念ながら,この課題では1単位めで使えた教科書の「索引」に「心」はありますが「動物」や「動物の心」はなくて役立ちません。目次も使えません。なので,教科書をめくっていって,とにかく動物のことが書いてあるところをさがしていきました。

(1) 三訂版p.74 改訂版p.132  ローレンツが発表した「刻印づけ」(刷り込み)=人間にも動物にもある生まれた直後の「学習する心」
(2) 三訂版p.95 改訂版p.124  心理学で「動物実験」がよく行われていること(直接は使えません)
(3) 三訂版p.96 改訂版p.12  パブロフの犬などの「条件づけ」=人間にも動物にもある「学習する心」。ちなみに「学習心理学」のレポート課題です。
(4) 三訂版p.106 改訂版p.16  三訂版では「動機」,改訂版では「欲求?感情」として紹介されていますが,食欲,睡眠欲,性欲などは人間にも動物にも共通。その他の動機や欲求?情動は?
(5) 三訂版p.148 改訂版p.103  問題解決のための思考(試行錯誤と見通し) ネコの問題箱,回り道の仕方(洞察),高いところにあるものを道具を使ってとるチンパンジー。人間の思考と同じところ,違うところは?
(6) 三訂版 なし 改訂版p.114  言語 チンパンジーの手話やアイちゃんの話し(松沢哲郎:京都大学霊長類研究所の研究)。サルも言語を使える!

 いずれも心理学をこれからやるぞという方は,勉強しておいて損はないので是非じっくり読んでみてください。また,よくも悪くも「動物の心と人間の心の違い」という課題に直接答えてくれている箇所はありませんが,それぞれ使えるネタです。表のどこを扱っているのか考えてみてください。
 ポイント6 使えるネタをさがして,教科書をあさろう。

 ここで2000字におさめるために何をとりあげるかですが,ここは個人差があってもよいと思います。ただ,アドバイスを読み返すと,(4)(5)(6)はとくに考え甲斐のあるテーマではないかと思います。
 なお,福祉心理学科の方は『福祉心理学科スタディガイド』も是非にお読みください。この課題では,次の箇所が参考になります。

p.46 心の成り立ち  獲物の位置を見定める(知覚?認知) 他人の意図や感情を読み取る 食物を独り占めにするために相手をだます 配偶者として適切な異性を選択するなどの心の働き
p.102 動物からヒトを学ぶ 離巣性と就巣性=人間はどちらでもない 生理的早産 動物の行動に関する興味深い研究の紹介

 ポイント7 福祉心理学科の方は『スタディガイド』で課題と関連したことが書かれていないかさがそう!

 さらにネタを仕入れることができました。でも,もっと知りたいと思った方は,是非参考文献をさがしてみてください。
 私は宮城県図書館に行って「キーワードでさがす」で「動物 こころ」「動物 げんご」「動物 ことば」「動物 感情」などでさがしてみました。インターネットならば,「アマゾン」や「ビーケーワン」などネット書店のサイトでキーワード検索することもできます。結構いろいろな本が出てきてとまどいますが,心理学だけでなく「比較行動学」「エソロジー」「比較認知科学」「霊長類学」などの分野のものならば的外れではないようです。
 ネタさがしにお奨めの本は,下記の3冊です。

小川 隆 『動物とこころ』大日本図書(児童書),1978年
 虫のカモフラージュ(動物もうそをつく) チンパンジーの知恵だめし(動物による知恵の働かせ方のちがい) ミツバチのことば(ミツバチの8の字ダンスの意味)など,動物の心に関するわかりやすいテーマが一杯。
仁平義明編 『現代のエスプリ359 行動の伝播と進化』至文堂,1997年
 このなかに載っているカラスの自動車利用行動(クルミを割るのに自動車にひかせるカラスが仙台にいて,そのやり方がどんどん上達していく)についての論文(仁平義明「認知心理学のスキーマ論からみた鳥の学習」)は,とてもおもしろいです。
松沢哲郎 『ことばをおぼえたチンパンジー』福音館書店(絵本),1995年
 さきほど出てきたチンパンジーのアイちゃんがことばを覚えていく実験がわかりやすく紹介されています。

 その他にも,比較行動学の本を多く出している岩波書店,青土社,新曜社,どうぶつ社などの出版社から出ている本や,著者が心理学研究者の本はちょっと難しいかもしれませんが,きちんとした内容のものだと思われます。また,図書館でブラブラ見ながらさがすのならば,心理学(分類:140)の箇所よりも生物学(分類:460)あたりに関連図書があるようです。
 ポイント8 参考図書をさがして読めば,教科書に書いてあることの理解はぐっと深まります。時間があれば是非やってみてください。

 かなりネタが集まってきました。アドバイスをもう一度読むと,「心の世界」という言葉の使い方や「(動物は)心の中でそれ(ことば)をいじりまわして工夫したり,悩んだりする力はきわめて弱い」ということにも考えさせられます。おばけがこわいとか,悩むとかが意外に人間に特有だったりするのかもしれません。
 全部書いたら,とても2000字ではおさまりません。何をどういうストーリで書くかを整理する必要があります。また,結論をどうもっていくかも考えなければいけません。
 冒頭にあげた佐藤俊昭先生の考え方に賛成でもちょっと賛成でもまったく反対でも,例や理由をあげて示すことができれば,結論はどれもよいのです。
 大学のレポート一般にいえることですが,とくにこの課題はいろいろな違いに着目すれば幾通りの書き方もできるし,「違いがある」でも「あるけど意外に少ない」でも「ない」でもどれでも正解です。
 ポイント9 正解はただひとつではありません。自信をもって自分の調べたこと,考えたことを書いてください。
 ポイント10 勉強したことすべては書けません。本論で書く題材を取捨選択して,「序論?本論?結論?引用?参考文献」という流れをつくって,書き出してみてください。

 私個人としては大変おもしろい課題と思いました。この文章は説教くさくなってしまい,すみませんでした。

(通信教育事務部 古藤隆浩)

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