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【通信制大学院コーナー】

[教員MESSAGE] 福祉心理学から学ぶこと

教授
宇田川 一夫

1.福祉心理学とは

 心理学は,その名称通り人間の「こころ」を理論的,客観的にとらえる学問です。しかし,一歩人間の「こころ」をとらえようとすると「こころ」は,心理学者が考えているほど単純でないことがわかります。たとえば,人間の「こころ」は「からだ」と表裏一体の関係であることが自明となります。このように無限の「こころ」の機能を有する人間の「こころ」を研究する心理学でありますが,「こころ」のどのような領域をどのように対象とするかにより,その方法も異なる面もあります。心理学の前に「実験」,「教育」,「発達」,「社会」等の名詞がつくことで,どの領域を研究する心理学であるかを初めて理解できます。一般に心理学と呼ぶ場合,それぞれの専門領域の総称といってよいでしょう。
 ところで,みなさんが専攻している「福祉」心理学は,いろいろな「○×心理学」と比べてまだまだ市民権を取れていない心理学のひとつの領域と思います。福祉心理学とは,「何をする心理学なの?」と素朴な疑問が浮かんでくると思います。福祉心理学が,他の心理学と比べて理解しにくい理由としては,「福祉」と「心理学」が,「重複する領域」が多いため,お互いの専門性が相殺される面があることと「福祉の世界」に心理学が接近するとその世界の広さと深さで心理学の専門性がぼやけてしまう傾向がある,というのが私の見解です。
 福祉心理学とは,広義の意味では,人々の福祉(幸福)のために心理学を活用することであり,狭義の意味では,何らかの障害(disorder)を持った人々の福祉のために心理学的アプローチをすることといえるでしょう。

2.福祉心理学が求められていること

 現代の日本では,「こころの時代」「こころの教育」が叫ばれています。この背景としては,物質的には豊かになりましたが,人間としての根元的なこころの自由さ,自然さが疎外される環境になったこと,人間として生まれながら人間としてのこころが充分に発達していない傾向等があげられます。
 福祉心理学は,現代社会からその必要性と具体的アプローチを求められているといえます。しかし,福祉の世界は,広大な裾野と奥深い世界でありますので,しっかりした「命綱」をもって入り込まないと自分の位置がわからなくなり,時には遭難する可能性もあります。福祉現場に「命綱」をもたず「意気込みや情熱」だけで就き,結果的に「燃え尽きてしまった人」の話もときどき耳にします。ここでいう「命綱」とは,心理学のそれぞれの専門領域を習得することであり,福祉現場への専門的応用であるといえます。したがって,福祉心理学専攻で学ぶ目的は,広義,狭義の福祉の世界に心理学の目的と方法を適応させる理論と実践を研究することであると理解しております。

3.スクーリングから学んだこと

 昨年度初めて「福祉心理学研究演習 IV」のスクーリングをおこないました。福祉現場で働く人々から家庭の主婦までいろいろな立場の人が受講され,発表されました。
 臨床現場で働く人は,臨床心理学をもって応用できるし,障害者のアプローチには障害者心理学が活用できます。しかし,看護師,教員,コンピュータ,大型免許等の専門職を持ちながら,そこでの対人関係(患者,児童?生徒,同僚等)が障壁となり,自分のもっている専門職が充分に発揮できないで困っている発表が多くあることに驚きました。当たり前のことですが,どんな専門職でも最後は人間の福祉の問題に突き当たります。
 福祉心理学のひとつの365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@な領域としては,多種多様な職種(家族関係も含む)でその専門性(家族役割)を充分に生かせる人間関係をどのように形成していくか,その一助として福祉心理学の理論と実践の習得が365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@な役割を担うのではないかと思います。
 たとえば,路上生活者に長年生活援助のボランティア活動をしていた人が,場所の移動の交渉をおこなうこととなりました。生活援助に関しては,行政との交渉や民間団体との連携など,援助者としては長年の実績からプロであります。しかし,場所の移動の交渉は,行政と路上生活者との間を取り持つコーディネーターとしての役割を担うこととなります。
 長年培った援助者としてのプロの能力をより発揮できるには,路上生活者の「孤立感,見捨てられ不安,怨み」等の心理を理解(心理アセスメント能力)しつつ,場所の移動の問題を「交渉」ではなく,「対話」(心理カウンセリング能力)で進めていく能力を身につけた方がよいでしょう。このように福祉心理学を学んだ人は,生活の援助者としてのプロと心理的援助者としてのプロの能力が身につくこととなります。
 福祉心理学は,広義,狭義の意味でも,現代の福祉の世界から心理学の理論と実践の必要性を希求されていると思われます。このような社会の要請に本学福祉心理学専攻は,いっそうの理論と実践の研究を進めていくことと心理学的アプローチのできる実践者の養成を進めていくことが課題であると思われます。

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