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【BOOK GUIDE】

在宅介護をどう見直すか 岩波ブックレットNo.579

 2000(平成12)年4月からスタートした介護保険。「在宅介護の重視」という理念でつくられたはずの介護保険なのに,実際には施設への入所希望者が大幅に増えるという結果をもたらしています。佐藤義夫著の本書では,介護保険のもつ問題点がわかりやすく指摘されています。
 (問題点1) 介護を必要とする人の中で「寝たきり」の数は意外に少ない,「元気な痴呆」や「軽度の要介護者」の数が非常に多い(p.12)。
 (問題点2) 痴呆の介護で365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@なのは「見守り」という24時間の生活支援であり,身体介護や家事援助だけを切り取って組み立てても,在宅介護はうまくいかない(p.13)。
 (問題点3) 要介護認定(アセスメント)からはケアの方針が出てこない。要介護認定もケアも,「医学モデル」から脱して「生活モデル」に転換する必要があるが,対応できる専門職が不足している(p.30)。
 (問題点4) 利用者の「デマンド」(要求)と「ニーズ」(必要性)は区別されるべきであり,要求に応じるだけのケアプランは誤り(p.33)。また,老人をすべて受身的な存在にする介護も誤りであり,「身体障害」を発端とする「生活障害」と「関係障害」をつくらないことが大切(p.20)。
 その他にも多くの問題点が指摘されています。介護の現場についてあまりくわしくない方は,このように主張が明確な本で,問題意識をつくってから,レポート課題について取り組まれるのもよいかもしれません。

 さて,では「どうすればよいのか」についても,本書ではかなりユニークな提言がされています。
 (提言1) アセスメントやケアマネジメントの有効性について,社会的な合意を積み重ねていくシステムをつくらなければいけない(p.33)。
 (提言2) デイサービスやグループホームといった在宅介護を支援する小規模な施設を街中にたくさんつくることが必要である(p.35)。そして,重度化すれば,施設介護に移行できるシステムがほしい(p.42)。
 (提言3) 家族介護の役割は,見直してもよいのではないか。家族も,地域の介護を支える大きな力である(p.54)。
 (提言4) 介護は割と容易に参画できる事業なので,やりたいと思う人は,ノウハウと資金をため,NPOを設立し「事業者」として参入してみてはどうか。介護技術をもった人びとが起業するための支援策を整備していくことも必要である(p.59-63)。
 提言2については,「せんだんの杜」の取り組みがこれに当たりますね。また,提言3については,「家族介護の負担を社会が肩代わりし,それによって,被介護者も家族もよい状態でいられるために」介護保険が設立されたという趣旨で,反対意見も多くあります。皆さんはどう考えますか。
 提言4について,たとえば仙台では「せんだい?みやぎNPOセンター」(http://www.minmin.org/)や「仙台市市民活動サポートセンター」(青葉区本町2-8-15 http://www.sapo-sen.jp/)などで,さまざまなバックアップや講座を行っています。起業というと敷居が高いとは思いますが,将来福祉職として身を立てることをお考えの方には,ノウハウを学んでおくことは選択の幅をひろげることになるかもしれません。

 なお,介護保険で介護サービスを提供する事業者に支払われる介護報酬が本年4月に見直され,「訪問介護」や「ケアマネジメント」の単価が引き上げられ,「施設介護」は引き下げられました。また,「家事援助」という項目がなくなり,「身体介護」「生活援助」の2種類に再編されました。本書の提言する在宅介護の方向に一歩近づいたようですが,実情はいかがでしょうか。現場で働いている方々のご意見を教えてください。

(Pon)

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