【シリーズ?東北】
『邂逅の森』とマタギ
今年7月15日に発表された芥川賞?直木賞は,いずれも「福祉」か「心理」か「東北」に関連していましたね。芥川賞を受賞したのは,モブ?ノリオ著『介護入門』。若い男性が祖母を介護する話しですが,ちょっと読みにくい文体です。直木賞は2作品が受賞しましたが,ひとつは,奥田英朗著『空中ブランコ』。ストレスでうまくいかなくなった人と精神科医の軽妙なやりとり。もうひとつの直木賞が,仙台在住の作家?熊谷達也氏による『邂逅(かいこう)の森』です。
熊谷達也氏は,東北の歴史や民俗に関心が深く,雑誌『東北学』にもよく寄稿されておられ,坂上田村麻呂と戦ったアテルイを主人公にした『まほろばの疾風』という著作もあります。今回の受賞作『邂逅の森』は「マタギ」の男性が主人公です。
「マタギ」とは,東北の山間部に住み,クマやシカなどを捕って生計を立てていた狩人たちのことです。また,猟に行くことを「マタギする」とも言います。秋田県の角館近くの阿仁町の「阿仁マタギ」が有名ですが,仙台にも江戸時代にはシカをとる「マタギ」で生活をする人たちはいたそうです。現在も阿仁地区には「マタギ」を行っている方はいるようですが,「マタギ」で生計をたてている人はいないと思います。ただの鉄砲撃ちとちがい,代々巻物が伝来され,さまざまなしきたりがあるようです。
『邂逅の森』は,明治から大正にかけての冬期の「旅マタギ」や春先の「穴グマ猟」の様子が生き生きと記述されています。基礎知識などまったくなくても,スラスラと読み進めることができます。
物語中,主人公の恋愛については,恥ずかしくなるようなロマンスの話でついていけませんが,マタギを離れ,秋田県の「阿仁鉱山」での採鉱夫としての生活については大変おもしろく読めました。戦前,東北では鉱山がたくさんありましたが,そこでの生活もただつらい?悲惨というだけでは語れない,さまざまな出会いがあったようです。
(Pon)