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VOL.22 SEPTEMBER 2004

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[社会保障論?公的扶助論]
初めてのスクーリングを終えて —ちょっと講義の補足も—

教授
阿部 裕二

 8月6日から10日にかけて,3年次開講科目である公的扶助論と社会保障論のスクーリング(配信あり)を行いました。私は3年次以降の科目(社会保障論,公的扶助論など)を担当していますので,今回の夏期スクーリングは私にとって初めての経験でした。ここでは,このスクーリングの印象,感想を述べていきたいと思います。

◆暑い中,お疲れさまでした

 今年の夏は昨年とは打って変わり酷暑で,スクーリングの間も連日大変暑い日が続いていました。教室は冷房が入っているとはいえ,冷えすぎたり,冷房を弱めると暑くなったりと受講環境としては厳しいものがあったことと思います(同じ環境でも,ある人は寒く感じ,ある人は暑く感じる。まさに福祉が対象とする「人間」そのものですね)。そのなかで,単一科目を受講された方々そして2科目を受講された方々,本当にお疲れさまでした。
 すでにスクーリングを経験された先生方から「参加されている方々は非常に熱心である」という話を聞いていましたが,実際にスクーリングをしてみると,このことが身にしみて感じ取ることができました。仙台会場では一人ひとりの真剣な視線を痛いほど感じましたし,配信会場からも質問を通じて,積極的な受講態度を窺い知ることができました。
 正直言って,2科目18コマ連続のスクーリングは私自身も辛いものがありましたが,受講生の皆さんからこのようなエネルギーをいただいて,楽しく充実した気持ちで授業をすることができました。ありがとうございました。

◆「目前」と「カメラの向こう側」

 今回のスクーリングは,仙台会場をキーステーションに数会場へ配信しました。講義風景をカメラで撮られることは,この業界へ入る前の予備校時代に経験していましたが,そのときは講義する相手は目前の生徒だけでした。その意味では,カメラの向こう側(配信会場)にもおられる受講生を意識しながらの講義は,私にとってスクーリングとともに初めての新鮮な体験でした。
 でも,配信会場のリアクションがリアルタイムで見えないため,理解できたか,理解できなかったかの把握ができなかった点など,配信授業の難しさも実感しました。私としては「こちら」と「あちら」ではなく,「こちら」と「こちら」の気持ちで講義したつもりですが,講義に当たって今後工夫が必要かもしれません。いずれにしても,画面を集中して見続ける配信会場において受講された方々の苦労(苦痛?)が推察されます。

◆講義の輪郭と補足

 さて,ここでは公的扶助論と社会保障論のスクーリングの輪郭を述べるとともに,その内容を若干補足したいと思います。
 公的扶助論においては,貧困概念が絶対的貧困から相対的貧困,相対的剥奪そして社会的排除へ移行しつつあるなかで,公的扶助(生活保護)がどのような仕組みをもち,現代社会のなかでいかなるセーフティ?ネットの役割をもっているかについて,問題や課題を含めて講義しました。
 試験の解答のなかにおいて,とりわけ保健?医療?福祉の現場の方々から,制度の理念と矛盾する現状の指摘がたくさんありました。ひょっとすると生活保護ほど理念と現実に差異がある制度はないのではないかと思いますが,なぜそのような現状になる(ある)のか,その背景には何があるのか,そして私たちは何をしなければならないのか,などの吟味が肝要であると思われます。
 また,社会保障論においては,社会保障の理論と歴史を踏まえ,少子?高齢化を切り口として,年金,医療,介護そしてその他の社会保険,民間保険について考察してきました。多岐にわたる内容であったために,それぞれの骨格しか触れられませんでした。それでも各制度の内容に関しては,受講生の興味が強く,授業後の質問も非常に細かな質問が多く見受けられました。私自身も勉強になりました。
 いずれにしても,私たちの生活に密着したシステムとして公的扶助(生活保護)や社会保障を理解していただくために,できるだけ具体的な事例を使いながら述べてきたつもりですが,「怒涛のように過ぎ去った時間」になってしまったかもしれません。

◆「速いなあ」

 「講義のテンポが速いなあ」「早口だなあ」。そんな声が聞こえそうです。少し反省もしています。スクーリングは,公的扶助論が6コマ(内1コマが試験),社会保障論が12コマ(内1コマが試験)で実施されましたが,私が今回のスクーリングで一番悩んだことは,それぞれの科目において,このコマ数のなかで「何を」講義するか,「何を」伝えるかでした。両科目とも,制度の考え方や理念に絞って講義しようかとも思いました。しかし,それだけでは全体像が見えない,しかも抽象的な話になってしまい理解しづらい講義になってしまう可能性がありました。
 他方,考え方のみならず内容(例えば社会保障論でいうと年金や医療や介護などの各論)も詳細に述べていくと講義時間が足りなくなる危険性があるなど,どちらを選択しても一長一短がありました。最終的には,将来「社会福祉士」や「精神保健福祉士」の受験を目指す方も多いこと(もちろん,受験のためだけの講義ではありませんでしたが……),そして全体を理解したうえで,公的扶助や社会保障が現代社会でどのような役割を果たし,課題をもっているのかを考えていただきたいと思い後者を選択しました。
 その際,教科書を補足する(ポイントを絞る)意味で「公的扶助論講義資料集」と「社会保障論講義資料集」を作成し配布しました。これらは,講義を円滑に進めるために講義者にとってはやりやすかったのですが,受講するに当たって効果的だったでしょうか。また,2科目(とりわけ社会保障論)ともかなり幅広い領域の学習となるので,受講する際には,十分の事前準備(教科書を読むこと)が必要ですという指示もさせていただきましたが,どうでしたか?
 仙台会場では,休憩時間や終了後に直接質問に来られる受講生の方が大勢いらっしゃいました。そのいずれの方も,教科書にアンダーラインやマーカーがたくさん引いてありました(多分,配信会場の多くの方々も同様であったと思います)。それだけ事前準備を積まれて参加していることに感動しましたし,講義者として責任の重大さも再認識しました。
 多くの方々は,事前に教科書を読まれてきたと思いますが,事前の準備ができていなかった方々にとっては,より一層「講義のテンポが速い」と感じられたかもしれません。

◆試験について一言

 試験については,多くの方が設問を理解し解答していました。また,裏表をビッシリ埋め尽くした答案用紙も多くありました(量が多ければ良い訳ではありませんが)。その意味では,「受講生のほとんどの方々が,講義内容をある程度理解していただいたんだなあ」とホット胸をなでおろしました。
 しかし,次の2点が気になりましたのでここに記しておきたいと思います。第1に設問を誤解している方がいたことです。たとえば公的扶助論の試験問題に「基本原理」を出題しました。ところがこれを「原則」と勘違いされた方が多く見受けられました。よく設問を読んでください。第2に「……について述べなさい」という設問に対して,単語だけを羅列したり,図示だけで解答した答案もいくつかありました。今後はしっかり「述べて」ください。

◆おわりに

 無責任な言い方かもしれませんが,今回の講義内容は皆さんが公的扶助(生活保護)や社会保障を考える際の材料に過ぎません。この材料を使って,皆さんが自分なりの公的扶助観?社会保障観を構築していってほしいと思います。
 また,以前『With』9号(APRIL 2003)に「社会福祉を学ぶと,自分自身の問題に突き当たる」ことを書きました。私たちの生活上のさまざまな危険に対応する公的扶助や社会保障は,まさに自分自身の生活に直結する,あるいは生活そのものであるといえますし,したがって,公的扶助や社会保障を学ぶことは,自分の生活設計を考える(構築する)ことにもなります。その意味において,今回の講義が単なる知識の蓄積のみならず,皆さんの生活設計(構築)の一助にもなれば幸いです。
 通信教育を受講されている皆さんが,その人なりのペースで自分自身の目的を達成できますようにお祈りしております。今回は本当にお疲れさまでした。そして,ありがとうございました。

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