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VOL.54 SEPTEMBER 2008

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[社会心理学] 社会心理学スクーリングを終えて

講師 吉田 綾乃

 スクーリング終了直後,皆さんが試験問題に取り組んでいる間にこの原稿を書き始めました。仙台ではめずらしいほど暑い二日間のスクーリング,本当にお疲れ様でした。また,熱心に講義に耳を傾けていただき,ありがとうございました。
 社会心理学はメディア等で取り上げられることの多い臨床心理学とは異なり,普段あまり見聞きすることが少ない分野であると思います。テキストにも聞き慣れない専門用語が多く,やや親しみにくい印象をもたれていた方もいらっしゃったのではないでしょうか。しかしながら,実際にはとても身近な問題を研究対象として取り上げているだけではなく,研究者が工夫を凝らした興味深い実験が数多く行われており,とても魅力的な分野です。そこで,今回のスクーリングでは,できるだけ事例をたくさん盛り込みながら,視覚的にも実験の面白さを分かっていただくように工夫することを心がけました。皆さんからのコメントを拝見しながら,「社会心理学は面白いよ」という私の説得は成功したのだろうかと,思いをめぐらせています。
 さて,スクーリングを終えて,皆さんにひとつお伝えしたいことがでてきました。それは,心理学の理論や実験結果の捉え方です。スクーリングの際に,社会心理学の中で有力な理論や実験をいくつか紹介させていただきました。それらの説明をした際に,理論や実験で取り上げた事柄と関連する社会的状況では,研究の中で認められたものと同じ行動や心理傾向が,そこにいる「すべて」の人に「いつも」生じるのだ,と考えた方が少数ですがいらっしゃったようです。
 詳細は心理学統計や研究法などの講義の際に確認していただきたいのですが,社会心理学の調査や実験では,主に多くの人からデータを集め,それらを統計的に分析します。このような手続きをとることで,客観性の高い一般的な心理,行動傾向を見出すことができます。しかしながら,その結果は「ある特定の人物」について語るものではありません。
 ミルグラムの服従実験を例として説明します。ミルグラムは,「権威ある人物から第三者に危害を加えるように命令された場合に人はそれに従うのか」ということについて,状況を変えた10種類の実験を行いました。そして服従率が56.43%であることを報告しています。ミルグラム以外の研究者が米国内で行った服従率の平均は60.94%,米国外で行われた服従率の平均は65.94%です(T. ブラス,2008)。このことから,権威に対して服従を求められると半数以上の人が従ってしまう,それは国籍に関係なく生じるということが分かります。しかしながら,この結果は「隣の家に住むAさんは服従するか否か」という質問には答えられないのです。
 もし,皆さんが自分自身の問題や,自分の目の前にいる誰かの個人的な問題の解決に社会心理学の理論や実験結果を生かしたいと考えた場合には,まず,理論の適用範囲やそれらの結果が成立する前提条件をしっかりと把握するようにしてください。そして,その個人的な事例についても多くの情報を集めたうえで,全体的な特徴と個人的な事例を比較検討することが有効であると思います。
 最後に,私は社会心理学を専門に学び始めてまだ10年ほどですが,大学院を卒業するときに,ある著名な先生から「心理学は人の行動をよい方向に変えることができる,役に立つ学問だ」といわれました。まだまだ学びの途中ですが,社会や人間の行動を客観的に視る目を身につけることで,自分自身が大きく変わったように感じています。ぜひ皆さんにも,社会心理学の学びを通じてよい変化が生じることを心より願っております。これからも頑張ってください。

参考文献:トーマス?ブラス 2008 服従実験とは何だったのか─スタンレー?ミルグラムの生涯と遺産 誠信書房

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