【学習サポート】
[誌上入門講義]
こころの健康と福祉 ?精神医学の立場から?
教授
佐藤 光源
●こころの病気とSecond Illness??統合失調症の場合??
精神障害にかかった人は,身体障害がないのに社会参加が難しい現状にあります。就労率が2割以下という報告もありますが,それはなぜでしょうか。さまざまな理由が考えられますが,長い歴史の中で培われたこころの病気に対する偏見や差別が,その大きな要因としてクローズアップされています。精神医療と精神保健福祉は精神障害者の社会生活機能を高め,社会参加を実現するために行われているのですが,社会の側に精神障害に対する誤解やスティグマがあり,それがノーマライゼーションを阻んでいる。そのことは長い精神科医としての診療場面でしばしば経験してきました。精神障害者の場合には,こころの病気のほかに精神障害者に対するスティグマと偏見?差別があるのです。私たちは,それを第2の病(second illness)と呼んでいます。そして,いま,このsecond illnessを解消するために世界的な規模で抗スティグマ活動が展開されているのです。
精神障害のなかでスティグマをもつ代表的な病気が昨年までの精神分裂病なので,そのsecond illnessについてとりあげてみようと思います。日本には約204万人(1999)の精神障害者がいて,1日に約49万人が治療を受けています。そのうち,統合失調症の患者さんは26万人ですが,100人に1人の割合でみられる病気なので,治療を受けないでいる方はもっと多いはずです。このうち入院治療を受けている人が21万人あまりで,平均376日(2000)という長い入院期間となっています。よくみると,3ヶ月未満で退院する一群と数年あるいはそれ以上も入院している一群に分かれます。問題は後者の長期入院群の患者さんたちで,実に入院患者の44%が5年以上入院しているのです。こうした人たちは病気を治すために入院しているというより,むしろ病院で「暮らしている」といった状況にあります。その中には,受け入れ条件が整えば退院できる人(社会的入院)が数万人いるのです。このため,厚生労働省は今後10年間に7万2000人の患者さんを退院させる方針を固め,それを今年から実施しました。しかし,ただ退院させればよいわけではなく,社会参加に必要な生活支援体制が不可欠です。そうした備えをしないで退院させることは非人道的な処遇であり,患者さんの生活の場を奪い,路頭に迷わせる結果になるでしょう。国は社会保健福祉事業を強力に推進し,精神保健福祉システムを拡充しようとしていますが,それだけで十分とはいえません。なぜ社会的入院が増えたのか,退院していく人々を待っている社会の側に受け入れる準備は整っているのか。そのように考えるとき,この病気に対するsecond illnessが大きくクローズアップされてくるのです。
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