仏教専修科

降誕会オンライン法話(千葉公慈学長)

降誕会を迎え、一言ご法話申し上げます。

さて、今年の降誕会は新型コロナウィルスの猛威の中、斯様な形での開催となりましたこと、学長として深くお詫びを申し上げます。また、大変な生活の状況下に置かれている皆様には心からお見舞いを申し上げます。

この降誕会ですが、仏教にとって大切な三仏忌と言われる行事の一つであります。ご誕生のこの降誕会、そしてお悟りを開かれた成道会、そしてお亡くなりの涅槃会、この三つの行事を三仏忌と申します。中でも、このお釈迦様のお生まれとなった降誕会は、昔から「花祭り」というお祝い行事として受け継がれてきました。実際には、農耕文化が広く根付いているこの日本においては、田植えの行事、種まきの行事として、春のめでたいしきたりとなって来たわけであります。大自然の芽吹を願い、生命の誕生をお祝いすると同時に、お釈迦様のお誕生を心からお祝いする、なんと美しい年中行事でしょうか。

時代は今からおよそ二千五百年前、インドとネパールの国境付近に、釈迦族という一部族が国を作っておりました。王様の名前はスッドーダナ王、妃はマーヤー夫人と言われています。スッドーダナの「スッドゥ」とは「清らかな」という意味、「オーダナ」とは「ご飯」「お米」のことです。したがって、王様のスッドーダナ王とは、「炊きたての清らかなほっかほかのご飯」というような意味になります。それだけ、お米作りが中心の農耕文化である、そんな国であったことが伺えます。マーヤー夫人との間になかなか子供が恵まれず、王室としても後の王位を継承する王子の誕生を今か今かと待ちわびていた中に、お釈迦様はお生まれになりました。ですから、お誕生になったのは一説には紀元前463年のこの四月の八日となっておりますが、当時は大変な国をあげてのお祝いだったようです。ただし、一つだけ悲しみもございました。お釈迦様のそのご出産の後、一週間後に、産褥熱で実母マーヤー夫人がお亡くなりになられたのです。当時の記録を読みますと、半分喜び、そして半分は王の妃の死を迎えた悲しみで、複雑な雰囲気が国中に漂っていたと言われています。おそらくは、お釈迦様はお育ちになる中で、周囲の人に聞かれたに相違ありません。「私の母親はどうして死んでしまったのか」と。おそらくはこう答えたに違いありません。「はい、王子、王子をお産みになって、お母様のマーヤー様は命を引き換えにお亡くなりになったのです」と。果たして、そんなやり取りがあったとするならば、その言葉にどんなお気持ちを抱いたでありましょうか。私のような凡俗なものが思いを巡らしても、その深いところまでは届きませんが、おそらくは、こんな気持もあったでありましょう。「ああ、自分が生まれるために、自分がこの世に命をいただくために、母親は身代わりとなって死んでくれたのか」と。きっと、そんな思いもどこかにあったに相違ありません。

釈迦族の王子としてこうしてお生まれになったお釈迦様は、すくすくとお育ちになりますが、このお誕生を祈念する降誕会には、さまざまな伝説が後に加えられることになりました。その中でもっとも大きな逸話が、「天上天下唯我独尊」(てんじょうてんがゆいがどくそん)と生まれたときに説法されたというお話であります。「てんじょうてんげ」と発音する場合が多ございますが、天にも地にも「唯我独尊」我のみぞ尊しと、この「唯我独尊」という言葉、現代では日常語の中で、「自分勝手」とか「自分のスタンドプレー」であるとか、あまりいい意味で使われないことも残念ながらあるようですが、もちろん本来の意味ではありません。「天にも地にもかけがえのない『我』という、『自分』という命の尊さに目覚めよう」というメッセージとして受け継がれてきた、尊い言葉なのです。実際、生まれたばかりで東西南北に七歩ずつ歩いて右手を天高く指差し、左手は大地を指差して「天上天下唯我独尊」と説法されたという事実は、皆さんにはにわかには信じられないことでしょう。もちろん、実際に生まれたばかりの赤ちゃんのお釈迦様がそうおっしゃったとは、事実上考えづらいところがあります。実は、近年さまざまな研究が進み、色々なことが分かってきました。この「天上天下唯我独尊」という言葉は、三十五歳の時のお釈迦様の説法の言葉として記されていることが、今ではわかっています。三十五歳、それはお釈迦様が悟りを開かれた年齢にあたる時であります。『マッジマニカーヤ』という初期経典の一節に、「ウパカ経」という経典があります。その中にあるこの言葉「ウパカ」とは、ある青年の名前であります。二千五百年前、ブッダガヤの大菩提樹の樹の下で、お釈迦様は悟りを開かれますと、その悟りの内容を人々に伝えるために、鹿野園(ミーダガヤ)というところを目指して、二百キロ以上の旅をされていました。その旅の途中のことであります。田んぼのあぜ道を歩いていると、その道の正面から、ウパカという若者がお釈迦様の前を通り過ぎようとします。するとどうでしょう。ウパカさんは、あまりに神々しくあまりに威風堂々とされたお釈迦様に感銘を受けるのです。そして思わずこう尋ねたそうです。「すみませんが、あなたはただの普通の人とは思えません。あまりにも神々しくいらっしゃいますが、あなたの先生はだれでしょうか。あなたはどこで修行されているのでしょうか。」このようなことを聞きました。今で言えば、そうですね、「所属はどこですか?どんな方に付き従って、あなたは修行し、勉強しているのですか」、学生で言えば、所属の大学や、あるいはゼミの先生を聞くような、そんな感じなのかもしれません。すると、お釈迦様はウパカにこう答えるのです。「あなたはどこの誰が先生か、どんな修行しているか、そういうことを尋ねようとしているが、それは間違いだ。ものを学び修行するというのは、己自身が何を求め、何を学ぶかが大事である。その時、私には先生はいなかった。私は私の力で、自分自身の道を切り開いたのだ」という趣旨のことをお話しします。すると、ウパカという若者は残念ながらも、「はあ、確かにそうなのかもしれません」と、深いところまではその意味を理解できずに、そのまま過ぎ去ってしまったのでありました。この短いやりとりの間に、お釈迦様は、「自分は悟りを開いた仏陀なのだ」と宣言されています。実は、お釈迦様の生涯の中で初めて「自分は悟った存在、仏陀なのだ」とおっしゃった最初の出来事が、このウパカという若者との会話の中に見いだされたのであります。後の人は、「仏陀の誕生、これはお釈迦様がこの世に舞い降りた、その意味と同じなのだ」と考えたに相違ありません。ゆえに、それがいつの間にか誕生の時のお話となっていったのでありました。今日は多少歴史的なことを申し上げましたが、お釈迦様のお誕生をお祝いするこの降誕会にあたって大事なことは、天にも地にも尊い「自分」「我」という命の尊さに気づき、そこから自分が何を求め、何を学び、どう生き抜くかということを自分自身から見つけ、発信していくことが大事なのだと受け止めていただきたかったのであります。「天上天下唯我独尊」。皆さんのさらなるご活躍をお祈りしています。

今日は、以上であります。

仏教専修科
インタビュー:仏教専修科
年間活動:仏教専修科
教職員紹介
新着情報:仏教専修科
科目紹介:仏教専修科
学生インタビュー(三田村尚範さん?朋範さん)「兄弟で父の遺志を継ぐ」
教員インタビュー(千葉公慈学長)「果てしない物語へ」
学生インタビュー(印海兵さん)「中国の仏教?日本の仏教」
学生インタビュー(工藤龍人さん)「大学院で街おこしを学ぶ」
教員インタビュー(新井一光講師)「仏教認識論から法華経へ」
教員インタビュー(木村尚徳講師)「大本山での十年」
学生インタビュー(水野有人さん)「鶴見大付属高校から東北福祉大へ」
学生インタビュー(田中貴道さん)「本山へ、そして故郷の町へ」
「仏教専修科」及び「禅のこころ」共同SDが開催されました
日本仏教社会福祉学会学術大会
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@七年度仏教専修科開講式
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@三年度お盆供養
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@三年度両祖忌
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@三年度成道会
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@三年度臘八摂心会
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@三年度涅槃会
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@三年度達磨忌?萩野浩基元学長七回忌
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@三年度仏教専修科開講式
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@三年度降誕会
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@三年度東日本大震災追悼式
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@五年度両祖忌
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@五年度成道会
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@五年度臘八摂心会
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@五年度涅槃会
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@五年度達磨忌
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@五年度降誕会
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@五年度震災追悼式
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@六年度施食会法要
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@六年度仏教専修科開講式
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@六年度降誕会
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@四年度両祖忌
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@四年度成道会
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@四年度臘八摂心会
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@四年度達磨忌
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@四年度仏教専修科開講式
活動記録:365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@四年度降誕会
活動記録:東日本大震災十三回忌
活動記録:太祖瑩山紹瑾禅師七百回大遠忌法要
科目紹介 中国禅宗史
科目紹介 参禅?法式?布教?教化
科目紹介 日本禅宗史
科目紹介 禅学概論
科目紹介 経論講読
法話?講話
365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@三年涅槃会法話(千葉公慈学長)
365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@3年開講式挨拶(高橋英寛理事長)
365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@3年開講式訓示(千葉公慈学長)
365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@三年降誕会式辞(高橋英寛理事長)
365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@三年降誕会挨拶(千葉公慈学長)
365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@二年両祖忌法話(千葉公慈学長)
365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@二年成道会法話(千葉公慈学長)
365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@二年涅槃会法話(千葉公慈学長)
365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@二年達磨忌法話(千葉公慈学長)
365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@元年成道会法話(千葉公慈学長)
365体育投注_365体育备用网址-【唯一授权牌照】@元年降誕会法話(大谷哲夫学長)
大谷哲夫学長インタビュー:仏教専修科の理念と展望
平成28年両祖忌法話(大谷哲夫学長)
平成28年成道会法話(仏教専修科主任 斉藤仙邦教授)
平成28年降誕会法話
平成29年両祖忌法話(大谷哲夫学長)
平成29年東日本大震災七回忌法話(大谷哲夫学長)
平成29年降誕会法話(大谷哲夫学長)
平成30年両祖忌法話(大谷哲夫学長)
平成31年涅槃会法話(大谷哲夫学長)
降誕会オンライン法話(千葉公慈学長)